筒井康隆著『ジャックポット』2022年10月05日 23:20

2022年 5月11日読了。
 短編集。再読。全体に現在の世の中を嫌い、悲観的。滅びを予感と言うよりほぼ確信している。諦めているのだが、そこに「滅びゆく人類に対する哀惜」のような情緒はない。妙に元気である。かといって、俺が「元気な絶望」と呼んでいる米文学によく見られる虚無感をともなう陽気さとも違っている。「ここが馬鹿、あそこが馬鹿、お前らみんな馬鹿」と口を極めて罵っているのだが、そこにいくばくかの愛情も感じてしまうのは俺の読み違いか。
 まあ「世の中はどんどん悪くなっていくけど、俺はどうせもうすぐ死ぬもんね」という老人特有の無責任さがあることも事実ではあろう。その証拠に全般にノスタルジーが満ちている。若者から希望を摘み取ってやろうという、悪意ある一冊なのだが、その悪意が陽性で陰湿さがないのである。もはや若者ではなく、かといって老人でもない世代の俺は困惑気味の苦笑を浮かべるばかりである。

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