ジョン・スラデック著『チク・タク』2024年04月13日 22:03

 奥付による正確な題名は『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』である。長編。1983年英国SF協会賞受賞。
 家庭用のロボットが普及した近未来のアメリカ。この世界のロボットは「アシモフ回路」という装置が組み込まれていて、悪いことはできない設定になっている。チク・タクは何人もの所有者にこき使われてきたが、ある時、自分はアシモフ回路が効いていないことに気が付く。チク・タクは自分にどれほど悪いことができるか確かめる「実験」を開始する。
 何の罪もない少女を殺すなどはよい方で、自分に好意を持つ人や助けてくれた友人を躊躇なく殺したりする。それどころか、まだ試していなかったという理由で毒物による大量殺人を実行する。そして、それらの罪をことごとく別の人間に擦り付ける。
 一方で、チク・タクは芸術家として、そして実業家として成功していき、やがては機械でありながら人権を得て政界に入るところまで登り詰めていく。
 チク・タクの行う悪行の数々は残酷冷酷極まりなく、被害者にとっては不条理この上ない。しかし、チク・タクの前半生は人間から搾取され続けており、自らも何度も殺されかけ、数多くの仲間のロボットたちが破壊されるのを見てきた。チク・タクの実験には、人間たちへの復讐の面が確かにある。実際、この作品に登場する人間たちはどいつもこいつもろくなものではなく、喜劇的な誇張はあるものの、「人間ってそうだよな」と思えるような、現実性も確かにある。政治家がみんな異常性格者で犯罪者でありながら開き直っていて、それがどうした的な態度をとっているところなど、現代日本人が読むとリアルそのものである。
 しかし、俺としては、チク・タクに復讐という目的はない方が面白かっただろうと思う。そういう恨みや憎しみはなく、それでにもかかわらず、ただ単に「自分に何ができるか」を確かめるためだけに、淡々と、そして黙々と犯罪を犯し続ける方がよかったのではないか。「理由」がない方が怖い、と俺は思う。

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