『ETV特集』7人の小さき探究者~変わりゆく世界の真ん中で2022年01月29日 21:06

20年 4月23日視聴。
 新型肺炎対策のため突然、休校となった気仙沼市の小泉小学校。全国に先駆けて、対話を通じてこどもが考える力を育む授業「p4c(ピーフォーシー)」を行ってきた。“philosophy for children(こども哲学)”の略称で、東日本大震災をきっかけに始まった。
 6年生7人は卒業直前の突然の休校に揺れる現状を、こども独自の視点で捉え、言葉にしてゆく。彼らは学校がなくなった日々に何を考えたのか。ディレクターが子供に質問して応える場面がある。質問してから応えるまで、子供が考え逡巡する間がある。その間はしばしば長い。妙な話だが、その沈黙が面白かった。
 言葉としては沈黙だが、表情や視線から子供の中で生じている葛藤が感じられるからであろう。ディレクターもそう思ったのであろう、カットせずにそれを流した。奇妙なテレビ的でない時間が流れた。
 子供たちが話す内容はそれほど優れているとは思わない。しかし、「大人が期待し、大人が気に入る応え」を探そうとはせず、自分の考えを、自分の言葉で語る。そこが面白かったのだろうと思う。

『欲望の哲学史 序章~マルクス・ガブリエル、日本で語る』2021年07月25日 21:20

19年 2月15日視聴。
 実存主義、構造主義、ポスト構造主義という戦後哲学の流れが再確認できて良かった。
 ガブリエル自身の「新実在論」は「世界は存在しない」などと刺激的な言葉を使っているが、要するに世界という全体を客観的に把握し得る視点は存在しないという、何を今更という感じの主張。キリスト教文化圏では常に一定の衝撃があるのかも知れないけど。
 実在するのはローカルな構造だけである。それでどうやって「合意」が可能かというと、ローカルな実在が重なり合っている事で可能になる。これもドゥルーズとガタリの「リゾーム」の言い換えという感じ。
 そういう意味では、非キリスト教的と言うか非一神教的なんだけど、倫理の問題になると、ヒューマン・ユニバーシティ的に絶対的普遍性が出て来る。それは論点先取りじゃないの、という気もする。

『100分de石ノ森章太郎』2021年05月25日 23:17

18年 9月23日視聴。
 770作品超えという前人未到の漫画を描き上げギネスブックにも登録されている天才漫画家・石ノ森章太郎。夏目房之介が『佐武と市捕物控』を、名越康文が『サイボーグ009』と『幻魔大戦』を、ヤマザキマリが『さるとびエッちゃん』を、宇野常寛が『仮面ライダー』を語る。
 手塚治虫の作品はエンターテインメントとして閉じている(解決している)のに対し、石ノ森章太郎の作品は、未完の物も多く閉じていないという話が面白かった。解決させようとすると「絶望」という結論に至ってしまうので、無意識にそれを避けたのかなとちらっと思った。
 また、石ノ森独特の「呪われたヒーロー」の系譜に在った『仮面ライダー』が、「シリーズが進むに連れて商品化していって心が離れた」という伊集院光に対して、宇野が『仮面ライダーブラック』などでは、石ノ森の作家性に回帰している、という意味の事を言っているのも興味深かった。

『こころの時代~宗教・人生』いのちを思い 言葉を紡ぐ2021年03月20日 21:21

18年 3月14日視聴。
 高村薫は、阪神淡路大震災と東日本大震災で余りにも多くの死を前にして言葉を失い、自分が生きている事に後ろめたさを覚えた。また、死と生を分けた物は何か、自分と死んだ人は何が違ったのかを考えた。
 それが仏教の縁起や空の思想を知る事で少し楽に生きられるように成った。高村自身は祈る事をしないが、被災者達が仏教の思想や信仰とは殆ど無縁にただ手を合わせて祈る事で、某かの救いを得ているのを見て、そこに原初的な信仰の意義を見出す。さらに最新作『土の記』では、生きとし生ける物全ての生命、死を含んだ生への全肯定的親しみの感情を描いている。
 高村の言う事は頭では良く判るんだけど、何だか感覚的には腑に落ちない物が残る。なぜかは判らない。

ドラマ『眩(くらら)~北斎の娘』2021年02月03日 21:02

17年10月 7日視聴。
 面白かった。画面に緊張感がある。演出のテンポも緩急が在って良かった。やればできるじゃん、という感じ。こんなのばかり百も二百も見たい。人物も皆活き活きとしていて良かったが、善次郎という人物のお栄にたいする思いが判りにくかった。松田龍平の演技のせいもあるが、脚本家や演出家も焦点が掴めていないのではないかと思った。俺の頭が悪いだけかも知れない。