サラ・ブルックス著『侵蝕列車』2026年08月03日 23:15

 長編。設定としては歴史改変SF。十七世紀、シベリアに未知の生命体が侵入し、独自の生態系を形成する。この新たな自然に触れたものは心身に異常をきたす。この一帯は〈荒れ地〉と呼ばれ、壁を築いて封鎖、隔離されている。この危険地帯を貫いて、欧州と中国を結ぶ鉄道が建設され、往復を開始する。会社は列車内は充分に隔離され、安全だと主張したが、やがて事故が起こる。会社は、事故の原因を窓ガラスを作った技術者に押し付けた。事故後、十か月の中断の後、シベリア横断列車の運行が再開される。北京からモスクワまでのその旅が、この物語の内容である。
 父の汚名をそそごうとするガラス職人の娘、〈荒れ地〉に天地創造の秘密があると考える博物学者、十六年前に列車の中で生まれた少女「列車の子」など、多彩な人物が入り乱れながら、列車は突き進む。
 序盤は、列車の内部を知り尽くした列車の子の日常、会社の欺瞞と隠蔽、博物学者の企みなどが物語の中心となる。しかし、列車の子が無賃乗客である謎の少女と出会ってから、列車は徐々に〈荒れ地〉に浸食されていく。
 人間の世界に侵入してくる不条理な異質の領域というのは何とも魅力のある設定である。解説の牧眞司は、類似の設定の作品としてストルガツキー兄弟の『ストーカー』と並んでジェフ・ヴァンダミアの『全滅領域』を挙げていて嬉しい。ヴァンダミアの「サザーン・リーチ三部作」は俺も大好きなのだ。欲を言えば、〈荒れ地〉の幻想と不条理をもっとたっぷり描写してほしかった。

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