アレステア・レナルズ著『反転領域』2026年07月10日 21:58

 長編。探検隊を乗せた船の航海が、船医のサイラスの視点で語られる、というエピソードが、細部を変えながら繰り返される。最初は帆船だったその船「デメテル号」が、次のエピソードでは蒸気船となり、次は飛行船、ついには宇宙船となる。どうやら、現実を直視したくないサイラスの逃避的妄想が語られているらしい。しかし、サイラスを現実に連れ戻すために現実世界からの侵入者がやってきて妄想は破綻するのだが、そのたびにサイラスは新たな妄想を捜索して逃げ込んでしまう。半村良の短編「夢の底から来た男」と同じ構造である。
 現実と虚構が逆転するところが読みどころの一つだが、正しい現実が一つだけあるのではなく、「全部虚構」あるいは「全部現実」という書き方もあったのではないか。純文学的だが、エンターテインメントとしてやれたら面白い。