大森望編『NOVA2021年夏号』2022年09月11日 21:45

2022年 1月24日読了。
 書き下ろしSFアンソロジー。
 柞刈湯葉「ルナティック・オン・ザ・ヒル」は、月面上の戦争を描く。補給の途絶えた前線に取り残された二人の兵士は、なすすべもなく眼前で展開する殺し合いを眺めている。刻々と減っていく酸素量を確かめながら、言葉だけを追えば緊張感のない馬鹿馬鹿しい会話を繰り返す。二人の心を徐々に狂気が蝕み始める。
 坂永雄一「無脊椎動物の想像力と創造性について」では、遺伝子を操作された蜘蛛によって、京都の街が巣に覆いつくされ、ついに焼却が決定される。しかし、時期遅く、蜘蛛たちは京都の外へ拡散しようとしていた。建築家が夢想する稀有壮大な蜘蛛との共生文明は面白いが、少し詰め込みすぎではなかろうか。長編にしたら面白そうな。
 斧田小夜「おまえの知らなかった頃」も、長編にしたら面白いと思った。主人公の天才女性プログラマーが何を考えているのか読者にも判らない処が、苛立たしくも面白かった。