メアリー・ノートン著『川をくだる小人たち』2020年04月07日 21:07

16年 2月19日読了。
 安住の地を探す小人家族の冒険の旅の物語。お母さんのホミリーが大変に面白い。何時もは泣き言ばかり言い、悲観的な予想で皆の意気を消沈させ、足手纏いに成るばかりなのに、不安や恐怖がある閾値を超えると、諦めが付いてしまうのか、突然冷静に成り、実際に役に立つかどうかはともかく、妙に頼もしげに成る。
 生きるための様々な技術を身に付けたお父さんは思慮深い人物だが、娘のアリエッティから見ると旧弊で頑な処もある。アリエッティはとても賢いが、子供らしい奔放さと好奇心に満ちて、少し思慮の浅い軽率さもある。野生児のスピラーは、かなり極端なサバイバル状況に於いてのみだが、殆ど理想的な技術と判断力を示す。
 楽しい組み合わせだが、作家が初めから計算して設計したのか、書いている内にそうなってしまったのかは判らない(でも多分後者)。全てが巨大に見える小人の視点や、薬缶の宿にナイフ箱の船といった人間の作った物の転用の面白さも何時も通り。
追記 ♪お椀の船に箸の櫂、という日本の一寸法師を、著者は知っていただろうか。

メアリー・ノートン著『野に出た小人たち』2020年04月03日 21:48

16年 2月15日読了。
 小人達の話が始まるまでの導入部が、年老いたトムと幼いケイトの交流が描かれていてなかなか良い。小人達の冒険は一種のサバイバルだが、一見頑に見えるホミリーが奇妙な柔軟さを見せるのが面白い。どうするのが正解という解答が見出せずに、迷いを残したまま終わるのも児童文学らしくなくて面白い。迫りくる冬という問題を解決するのが小人達の努力や知恵ではなく、ある種の偶然であるのは、ちょっとカタルシスが弱いが、努力が報われないのも児童書らしくない。小人達を救う少年は前巻にも出て来たが、二人共、単純に純真で善良な理想化された子供ではなく、子供らしい利己心も持っている処はなかなかリアル。

メアリー・ノートン著『床下の小人たち』2020年04月02日 20:48

16年 2月13日読了。
 ジブリのアニメにも成った英国のファンタジー。小人の家族の暮しの細部が面白い。人間の何を小人が何に転用して使っているかが事細かに書かれている。宝石箱の長椅子、マッチ箱の箪笥、壁に掛かっている肖像画は郵便切手である。
 小人達は「人間は自分たちに奉仕するための存在である」という、ある種傲慢な自分中心の世界観を持っているが、それは勿論、キリスト教的な人間中心主義の世界観を批判し、相対化する視点に読者を誘導する。一九五二年の発表だが、欧州の子供向けの本としてはかなり過激だったかも知れない。最後の一行が利いている。

ジュディ・バドニッツ著『イースターエッグに降る雪』2020年04月01日 18:35

16年 2月10日読了。
明示はされていないがおそらくは東欧と思われる深い森の中で生まれ、アメリカに渡ったイラーナの戦前戦中戦後に渡る生涯を描く。不思議な事が沢山起るのだが、幻想や不条理は強調されない。マジックリアリズム的手法。
 寧ろ酷く奇妙に感じるのは、イラーナと娘や孫達の心理である。酷く歪み不健全に感じるのに、何故か理解でき共感できる。それぞれに違った世界観を持ち、違う現実を見ている。ここまで来れば「確かな一つの真実てなもなねえんだ」という処まで後一歩なのだが、誰もが他者の現実を受け入れようとはしない。
 「それから、突き破って進むんだよ。だって結局紙に描いた背景なんだからね」(p.414)。

小川一水著『天冥の標9 ヒトであるヒトとないヒトと Part1』2020年03月31日 18:22

16年 2月 6日読了。
 何時もながら面白かった。登場人物が全部愛らしい。羊飼いの少年のけなげさも泣かせるが、異星人ミスン族が理想という概念を発見する処は感動的。