ロラン・ジュヌフォール著『オマル 導きの惑星』2019年11月06日 22:11

15年 5月 4日読了。
 ぴんと来ず。三種の知的生物が暮らす惑星オマル。謎めいた卵の殻を持った種族も出自も異なる六人の男女が、一機の巨大飛行船に乗り込み、巡り合う。この『八犬伝』的設定は浪漫を感じさせるが、残念ながら登場人物の一人一人に魅力を感じない。惑星オマルの社会状況、スチームパンク的な技術水準も良く構築されてはいるが、SFとしては面白みがない。結末も無理矢理な感じでカタルシスを感じない。何よりも、物語の大半を占める飛行船での漂流がやや単調で、冒険小説としての盛り上がりに欠ける。俺が何か見落としているのだろうか。

ジーン・ウルフ著『ピース』2019年11月07日 22:02

15年 5月 6日読了。
 主人公は複雑に作った自宅の中で迷い、自分の記憶の中でも迷う。そういう話。一応は、人の死に絶えた迷宮状の屋敷にただ一人残された老人が、邸内を彷徨いながら自分の過去を思い付くままに書き取った物、と読めるが。想起された思い出の一部のように描かれている病院こそが「現時点」で、それより未来の部分は主人公の妄想と読む事も可能である。
 本国での評論では、主人公既に死んでいる幽霊の語り手ではないかという説もあるという。そういう「真実を一つに決定できなさ」が最大の面白さかも知れない。俺は奥泉光を連想したが、もちろんこちらの方が古い。
 三人の求婚者を手玉に取る叔母や、妻の幽霊に薬を盛られて石化していく薬剤師、意図的に不具者を作ろうとするサーカス、偽書を作る古書店主など、登場人物達も面白いし、断片的に語られる寓話風の物語のイメージも面白いのだが、多くのエピソードに結末が付いておらず錯綜し混乱してモザイク状に成っているのが更に面白い。
 モザイク状の記憶に対応するかのように、屋敷もどの部屋がどこにあるのか主人公には判らずに彷徨い続ける。時間のモザイクと空間のモザイク。

イアン・マクドナルド著『旋舞の千年都市』上下2019年11月08日 21:47

15年 5月14日読了。
 可愛げがなく親しみが持てない主人公達に、読み進むに連れて愛着が湧いて来る処がなかなか良い。神秘主義と先端技術が融合しているのか分離しているのか良く判らないまま混ざり合っている具合も面白い。
 物語の背後に流れているであろう、極大の物から極小の物まで貫いている普遍的で超越的な何か、フラクタル神秘思想とでも呼ぶべき主題はもっと強調されても良かったのではなかろうか。そういうフラクタル的繰り返しは空間だけでなく時間的にも現れているように思われるが、それもちょっと見えにくい。全体に近未来のイスタンブールという舞台の「魔都」性がもっと強く出れば数段魅力が増したのではなかろうか。
 それから、これは最近SFを読んでいて良く思う事なのだが、面白いんだけどその面白さの質がどうもSF独特の物ではない感じがする。普通小説、などという分野があるのかあり得るのか判らないが、サスペンスとか冒険小説とかハードボイルドとかでも表現し得る質の面白さに思えて仕方がない。
 それでは、俺の考える「SFに特有の面白さ」とはどんな物かというと、多分、宇宙観とか生命観とか人間観とかそういう「認識の枠」を解体しないまでも揺さぶりを掛けて来るような物、ではないかと考えている。

映画『アフター・ライフ』2019年11月09日 23:04

15年 5月14日視聴。
 お喋りな死体達。米国映画らしくなく、善悪という基準が通用しない処で話が進む。余り高い評価を受けなかったらしいが、米国人は好まぬであろう。こういう幻想とも現実とも付かぬ、全てが曖昧なまま展開する構成は俺は好きだ。気持ち悪いと言えば確かにその通りだが。

キム・スタンリー・ロビンスン著『2312 太陽系動乱』上下2019年11月10日 22:19

15年 5月20日読了。
 気分屋で軽率な主人公の性格設定が良い。ただ、設定が未来なので、生活や良識が現在と違っており、主人公の行動の奇矯さは周囲の人物の反応からしか判らない。太陽系に進出した人類の社会が丁寧に描かれているが、筋立てとしては、水星都市テロ事件と地球の社会問題を宇宙生活者が解決しようと介入する話が、それぞれ殆ど独立に進行し、その両者に主人公が深く関っているので、やや散漫な印象を受ける。筋立てよりも、人類の太陽系開発史と社会文化状況の解説小説として読むべきなのかも知れない。それぞれの惑星の違いなど確かに面白い。