柴田勝家著『走馬灯のセトリは考えておいて』2024年03月18日 22:22

 SF短編集。もっとも俺好みなのは「クランツマンの秘仏」。スウェーデンの東洋美術学者クランツマンの物語。彼は「信仰は質量を持つ」という仮説というか妄想に憑りつかれている。彼は、決して開帳が許されない日本の寺の「絶対秘仏」の調査中に姿を消す。以下ネタバレ。どうやら彼は、実在の不明なその秘仏に自分がなろうとして、閉ざされた逗子の中に入り込んだのではないか、と示唆されて物語は終わる。憧れが高じた挙句の自己同一化の欲求と読むのが普通だが、仏が信仰を生んだのではなく、信仰が仏を生んだ物語とも読める。どうも俺はこういう因果の逆転や混乱を描いた話が好きらしい。
 他には、「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」が良かった。内容はそれほどとは思わないが、論文のパロディという形式が面白い。

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