オラフ・ステープルドン著『スターメイカー』2023年06月18日 23:35

 SFの古典的長編。最初の出版は一九三七年、第二次世界大戦前夜である。平凡なイギリス人であった主人公は、突然肉体を離れた霊的存在となって宇宙を翔ける。ビッグバンから遠未来までの宇宙と知性の全歴史、さらに繰り返し創造されたたくさんの宇宙について。
 最初は地球以外に誕生した様々な知性のバリエーションが描写される。六本足の生物から進化したケンタウロス型の人類とか、ヒトデのような動物から進化した人間的棘皮生物、オウム貝状船人類などなど。これらの知性は、地球人類と違うところも多いが、文明を発達させると必ず紛争を起こして絶滅したり、絶滅の危機に瀕するという点はみな共通している。そして、絶滅を免れたごく一部の種だけが次の段階に進むが、そこでも多くの場合は争いが避けられない。知性が発達すれば争いは避けられないというのが著者の確信なのかもしれず、争いを潜り抜けなければ知性は次の段階に進むことができないのかもしれない。
 海で発達した魚状人類と甲殻人類の共棲体は、更なる高みに達して、テレパシーでネットワークされた集団知性へと進化する。前著『最後にして最初の人類』でもそうだったが、個体知性が集まって集団が一つの人格のようにふるまうようになるのが、著者にとって「ありうべき知性進化の道筋」らしい。そしてこのような集団知性は、さらに段階的に惑星知性、銀河知性、コスモス知性へと段階を登っていく。
 俺の先走りで、このような知性進化の果てに造物主である「スターメイカー」へと到達して循環が閉じるのかと思っていた。ところが、被造物は最後まで造物主とはならず、スターメイカーはあくまで独立した存在だった。この創造主はキリスト教の神のように最初から全知全能の存在ではなく、いくつもの世界を創造しては自分の被造物から影響受けて、より完全な存在へと近づいていく、いわば成長する神なのだった。
 クラークの『幼年期』や小松左京の『虚無回廊』、小川一水『天冥の標』など遠未来SFはことごとく影響を受けているであろう。

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