C・L・ムーア著『大宇宙の魔女 ノースウェスト・スミス全短編』2023年06月22日 22:23

 再読。もしかしたら三読かもしれぬ。連作短編集。SFというよりは幻想怪奇譚。世界は、惑星間を宇宙船の飛び交う未来社会と、酒場と熱線銃の西部劇の世界と、魔物が跋扈する幻想の世界で構成される。ほぼ全ての作品が、西部劇の世界をホームグラウンドにする無法者のノースウェスト・スミスが幻想の世界へ迷い込んでいく構成になっている。
 多くの作品で若い女或いは女のように見える者がスミスを幻想世界へいざなう。女は庇護を求めてスミスの許に駆け込んでくる場合もあるし、悪意を持って異世界へ誘い込む場合もある。
 そこでスミスは恐怖の体験をするわけだが、恐怖は奇妙にエロティックな甘美さを伴っている。恐怖の質は、命の危機に対するものであると同時に、何か淫らなものに溺れて自分が堕落していくことに対するものでもある。死と性は、論理的には相反するものであるはずだが、両者が表裏一体となった関係は、直観的、感覚的には妙に得心するところがある。命の輝きとしての性の裏に付いて回る淫靡性や退廃感がそう感じさせるのであろう。何やら神話元型性を感じる。
 登場する魔物は、はるか古代に連なる種族や神々で、遺跡なども頻繁に登場する。解説によれば、これはエドガー・ライス・バロウズの「火星シリーズ」などの影響で、異星の古代遺跡というのは一九三〇年代ごろのエンターテインメントSFの定番であったらしい。
 幻想怪奇譚らしく、迫りくる危険は輪郭がぼやけていてはっきり見定めることができない。そのため、描写は抽象的、感覚的。これをH・P・ラブクラフトが絶賛したそうである。ちょっとイラッとしないこともないのだが、そのもどかしさが怪奇ファンには良いのであろう。
 俺が一番好きなのは「狼女」。最も幻想性が高く、イメージもシュールリアリスティックで素晴らしい。

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