オラフ・ステープルドン著『最後にして最初の人類』2023年06月11日 23:06

 長編。オラフ・ステープルドンの代表作の一つだが、不勉強なことに初読。二十億年に及ぶ人類の未来史を描くという壮大な試み。
 第一章から第五章までは、この本の中では<第一期人類>と呼ばれる我々現生の人類ホモ・サピエンスの未来史。数々の戦争が起こり、ヨーロッパが没落し、アメリカと中国の対立ののちにアメリカ化された世界国家が樹立されるが、これもやがて没落していく。
 第六章以降は第二期から第十八期までの、もはやホモ・サピエンスとは別種の人類たちの物語。全体としては、理想的な「完全知性」に向けて進化しようとするが、何度も退化して知性を失い野蛮状態に戻るし、完全知性とは別の方向へ逸れて行ったりする。その過程で、火星人の侵略を受けたり、巨大な脳だけの生き物になったり、翼を身につけて飛翔したり、さまざまな種族が生まれては滅びていく。また、月が軌道をそれて地球に近づいてきたり、太陽活動が変動したりして、惑星移住を余儀なくされ、地球から金星、近世から海王星へと移り住む。
 二十億年の歴史を描いているのだから、自然の進化でも十分に種の変化は起こるはずだが、進化の多くは人工的な種の改編で起きるのが特徴の一つ。ここで描かれる人類たちは、遺伝子操作や優生学で人工的に自らの種を改造することにほとんど抵抗を感じない。
 描かれる歴史が長すぎるので、詳細が描かれないのは仕方のないことではあるが、各人類たちの文化や心理が十分に共感できないのは物足りないところではある。特に最後の人類の至った境地や哲学。もはや脳や身体の生理が異なっているので、理解するのは不可能なのも当然ではあるのだが、何か比喩的な方法で、薄ぼんやりとでも理解できるように描けたら良かったなあと思うが、それは今後のSF作家の役割であろう。
 様々な作家に影響を与えた名作だが、オールディスの『地球の長い午後』やクラーク『幼年期の終わり』は大いに刺激を受けている感じ。

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