ジョナサン・ストラーン編『AIロボットSF傑作選 創られた心』2023年06月01日 22:18

 アメリカで編集されたロボットテーマSFアンソロジーの全訳。『創られた心』という題名は何やら深遠で哲学的な響きだが、ここから予測されるような至便性の高い作品は少なく、全体に軽い印象。いつも言うように軽いことはエンターテインメントにとって欠点ではないが、ちょっと書名と落差がある感じ。まあ、近頃は自己同一性とか意識のハードブレムとかクオリアとかいう主題は流行らないのであろう。一時期頻出したアイデンティティという言葉はさっぱり聞かなくなった。俺の苦手な自分探しの物語が少なくなったのは助かるが。
 変わって主題となっているのは、ロボットの差別とか搾取とかいった人間による抑圧の問題。つまりロボットの人権問題で、これはどうしても現実の人間に対する人種差別や格差の問題を連想してしまうが、隠喩として読んでしまうとつまらない。やはり、ロボットや人工知能に独自の問題を描いていただきたい。
 が面白かったのは、ジョン・チュー「死と踊る」とスザンヌ・パーマー「赤字の明暗法」で、型落ちした古いロボットの処分、という問題をあつかっている点である。役目を終えた知性ある存在をどのように扱うか。古くは筒井康隆が「お紺昇天」で、近年ではカズオ・イシグロが『クララとお日さま』で扱った主題で、ちっとも新しくないが、古びることもない。

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