マーサ・ウェルズ著『マーダーボット・ダイアリー 逃亡テレメトリー』2023年05月28日 22:31

 短めの長編と掌編二編を収録。形式はいつも通りのミステリー。俺はミステリーには興味がないのだが、何しろ主人公の魅力に参っているので最後まで楽しんで読んだ。主人公は構成機体と呼ばれる培養された人体と機械のハイブリッドロボットで、人間の警備を目的に製造された。警備と言っても、公的なものではなく、元々は企業の所有物であったが、今は新たな所有者によって自由を与えられている。人間の神経組織を部品として使っているので感情がある。
 「弊機」と自称する主人公は、警備ロボットとしては非常に優秀だが、平常時の人格には幼稚なところがあり、ちょっと意地悪で厳しい皮肉を口にして、人間を怒らせて楽しむような悪趣味な性格である。この世界では、普通は警備ロボットを目にする人は限られており、ドラマで悪役にされることが多いためもあって、一般には凶悪で危険な存在だと思われている。主人公の皮肉な性格は、警備という目的のために猜疑心が強いということもあるが、人間たちのそのような偏見も影響している。
 主人公が暮らしているぷリザベーション・ステーションではめったに起こることがない殺人事件が起こり、主人公はステーションの警備局の捜査に協力することになる。例によって、最初は警備ロボットを危険視していた警備局だが、徐々に主人公の有能さを認めざるを得なくなっていく。いつものパターンなので、読み始めてすぐ、ああこれは、最初は反発し合っていた者同士がやがて心を通わせていく展開だな、と予想がつき、その通りに進むのだが、それが妙に楽しい。
 著者は出版社と、このシリーズをさらに三冊書く契約をしたそうである。待ち遠しい。

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