奥泉光著『グランド・ミステリー』2019年07月08日 22:11

14年 8月 3日読了。
第二次大戦中、海軍士官の加多瀬は、親友の死を調べる内に記憶の混乱に襲われ始める。題名がミステリーだから推理小説かと思ったら幻想小説だった。それも、物語の中盤までは幻想は背後に潜んでいてそれとは判らない。日常的な常識の範囲内で起こり得ると思える事ばかりで、超常的な事は何も起こっていないように見える。中ほどに来て漸く幻想が前面に出て来る。半村良のスタイルである。なかなか句点が現れない長いセンテンスが積み重ねられる独特の文体。エンターテインメント的な陰謀譚と平行して、日本人にとって第二次大戦とは何だったのかという思弁的議論が展開し、さらに歴史と時間、人間と戦争という主題に発展していく。その底から浮かび上がるように、死とどう向き合うかという究極の主題も現れて来る。勿論答は出ない。地質学的な時間や生物種の絶滅という話題も少し出て来るので、どうせなら人類の存続というような話ももっとして欲しかった。登場人物の中では、悪役である彦坂と志津子がちょっと面白い。特に志津子は出番はちょっとしかないのに全編に渡って凄い存在感。

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