東山彰良著『ブラックライダー』2019年05月11日 00:01

14年 4月 6日読了。
長編。死と再生、或いは滅びと復活の形式を取っているのだが、最初から死と生が曖昧な感じがあって、読み終えてすっきりしないもやもやが残る。もやもやが不快かと言うとそうでもない。他にも、善悪とか聖俗とか何もかもが曖昧で結論が出ないままほったらかしにされる。自分探しをしている人が多数登場するが勿論そんな物は見付かりはしない。エンターテインメントらしくないが面白い。中盤に現れるヨアリという「純粋災厄」の如き女の子が、不意に居なく成り、最後まで再び登場しないのもなんだかシュールである。食用の「牛人間」という存在のグロテスクさをもっと協調しても良かった。

瀬名秀明著『大空のドロテ』全三巻2019年05月11日 21:52

14年 4月10日読了。
長編。構成としては、鍵を集めて暗号を解き宝物を手に入れようとする勢力が複数あり相互に奪い合う、そしてそれに少年と少女が巻き込まれる、という冒険活劇の定型なのだが、話が入り組み過ぎていて最後まで全体が見渡せない恨みが残る。これは俺の頭が悪いせいかも知らぬが。主要な登場人物たちの行動原理が良く判らない。敵も味方も無駄な動きが多くて何がしたいのかが明確に成らぬ。特に女性の描き分けが成されていない感じ。最後まで明かされぬ謎が多すぎるせいもあり、冒険活劇的な通快感や疾走感が得られない。「分身」というのが主題の一つだと思うのだが、これも効いていない。飛行機を操る生理的な快感は良く描写されていて気持ち良い。ちょっと『紅の豚』を思い出す。

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 3』2019年05月12日 23:46

14年 4月12日読了。
山田正紀「交差点の恋人」は、「脳生理学的宇宙船」という着想が今も新鮮さを失わない。栗本薫「滅びの風」では、SFでしか描けないと思っていた「滅びの現実感(リアリティ)」というものが何時の間にか足下に忍び寄って来る。仲井紀夫「見果てぬ風」は、空しいのやら充実しているのやら判らぬ奇妙な読後感。

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 4』2019年05月13日 21:48

14年 4月13日読了。
篠田節子「操作手(マニュピレーター)」は老人介護が主題。決定的な悪意を持つ人は登場しない。特に嫁などは立派なくらいだ。にも拘らず皆不幸である。安易な解決は示されない。誰かを告発したりもしない。つまり「正しさ」を描こうとしていない。「正しい事」を言うのは楽ちんだ。見習わなければ成るまい。田中啓文「嘔吐した宇宙飛行士」も印象は強烈ではある。

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 5』2019年05月14日 21:47

14年 4月14日読了。
『天地明察』の元型と成った冲方丁「日本改暦事情」が面白い。SF性は低いが。映画にも成ったが、NHKの大河ドラマにすれば良いと思う。飛浩隆「自生の夢」も素晴らしい。このシリーズの続きが読みたい。廃園の天使も。瀬名秀明「きみに読む物語」は、文学を取り巻く状況ばかりが描かれていて、文学自体の力のような物が抜け落ちている。作者の迷いの現れであろうか。主人公の一人である研究者の「物語を読んで感動する心の仕組みを知りたい」という気持ちは、本当にもう痛切によく判る。