高野史緒著『ヴェネツィアの恋人』2019年05月05日 23:27

14年 3月26日読了。
短編集。巻頭の「ガスパリーニ」以外は全て雑誌かアンソロジーで読んでいた。あとがきにある「小説は、作者自身にもコントロールし得ない深淵からやって来て、作者を使役してこの世に形を成す」という事は、小説を書く者なら誰でも知っているであろうし、小説以外でも表現をする者の多くが得心する事であろうが、それ以外の人達にはなかなか理解して貰えぬ事でもある。動機は作者にではなく作品の側にある、というあの感じ。

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 1』2019年05月06日 21:22

14年 3月28日読了。
全て既読だがまた読んだ。星新一「鍵」の最後の一行が良い。石川喬司「魔法使いの夏」も素晴らしいが、この面白さは果たしてSFの面白さか。どっちでも良いけど。筒井康隆「おれに関する噂」は何度読んだか知れぬが、今でも通用する、と言うかネット時代の今だからこそ通用する。

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 2』2019年05月07日 22:11

14年 3月31日読了。
山野浩一「メシメリ街道」も面白いが、矢野徹「折り紙宇宙船の伝説」が一番好きかな。故郷を失った者の話にはどうも弱い。そして、言うまでもなく小松左京「ゴルディアスの結び目」。新井素子「ネプチューン」は今読むとセカイ系だな。

月村了衛著『機龍警察 未亡旅団』2019年05月08日 22:06

14年 4月 2日読了。
面白かったけど、これまでの三巻に比べると散漫な印象。多くの挿話が最後の場面に収斂していくようなカタルシスがないと言うか。歪んだ母性、というのが一つの主題であろうが、そこがもう一つ焦点を結ばない。それから、テロリストのリーダーの女性と、一人の政治家とその妻の間に一種の三角関係があるのだが、その緊張感も読者に伝わって来ない。いや、勿論面白い点も多い、と言うか全体としてはとても面白い。主人公の一人であるかつてテロリストだった女とテロリストの少女がただ一度言葉を交わす場面には、それ自体にも緊張感があり、作品全体の中でも重みを持つ。これは基本だが活劇も面白いし。警察官僚の嫌らしさや国際情勢の複雑さも、何時も通り丁寧に描かれている(でもちょっと飽きた)。これからはシリーズ全体を貫く物語(沖津部長の正体とか、「敵」は誰かとか)が動き始めるのであろう。

筒井康隆著『聖痕』2019年05月09日 22:33

14年 4月 3日読了。
性欲のない人間には音楽も文学も判らず、味覚が「快」の中心に成る。そういう事って実際にあったのかな。事故でも人為でも性的機能を失った男性というのは多く居た訳だが。最大の特徴の一つである用語や文体の効果は俺には良く判らなかったが、これだけ実験的な事をしているのに、読みやすく判り易いのは驚異的である。