宮内悠介著『国家を作った男』2024年03月20日 22:26

 短編集。少年期をアジア系としてニューヨークで過ごしたという経験が、なんとなく全体に影を落としている。
 「パニック----一九六五年のSNS」は、一九六〇年代の日本に、パソコン通信のような最初期の電子通信が普及している世界の物語。ベトナムで一時行方不明になった開高健に対し、「ジコセキニン」という言葉を使った筋の通らない誹謗中傷の暴走的連鎖が起こり、これを「世界最初の炎上」とする、という変な話。「変な」はもちろん誉め言葉。俺は変な話が読みたいんだ(絶叫)。
 俺が一番好きなのは「三つの月」かな。精神科医の主人公が、中国人の女性マッサージ師に出会って自分の仕事に疑問を持ち始める、というのが前半。彼女のマッサージの効果は、西洋医学にはない「別の医学の体系」によるものなのか、それとも単なるプラセボ効果なのか。終盤、突然姿を消した彼女は、実はウイグルの反政府組織に属していたらしいことがわかる。この「唐突に現実社会の政治が割り込んでくる」感じが面白い。

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