ドラ・ド・ヨング著『あらしのあと』2023年12月22日 22:46

 『あらしの前』の続編。オールト家の戦後が描かれる。ここでもバッサリ省略する技法が使われている。前作はオランダがドイツ軍に降伏するところで終わったが、占領下の厳しい暮らしは描かれず、いきなり戦争が終わったところから物語が再開する。児童文学としては、あんまり生々しい葛藤は描かないということかもしれない。
 前作から六年の月日がたっており、人々はそれぞれ六歳年を取り、ミーブは結婚してロビーという男のを生み、そして次男のヤンは死んでしまった。戦争が終わってオランダは解放され、自由な生活が返ってきたが、何もかも元通りになったわけではなかった。物資は不足し、破壊された町は復興が進んでおらず、何よりも親しいものが多く死んでいた。オールト家の人々も、ヤンの死から立ち直れずにいた。そこへ、ナチスを逃れて出国していたユダヤ少年のヴェルナーがアメリカ兵となって帰ってくる。それをきっかけに少しずつ希望が甦ってくる。
 解説で斎藤敦夫が「この物語は、アメリカに対する信頼と賛美にあふれています」(p.238)と書いているが、俺はむしろ芸術への信頼を感じた。物語の中で二女のルトは、絵描きのクラウスから自分の描いた絵を絶賛され、それをきっかけに悲しみから立ち直っていくのである。才能を認められたルトが泣きながら「ヤン、あなたのいったとおりよ。ヤン、あなたのいったとおりだったわ。」(p.152)と囁くところは泣かせる。長男のヤープがピアニストとして最初の成功を収めるところで物語が終わるのは、芸術への信頼を象徴している。

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