フランシス・ホジソン・バーネット著『消えた王子』上下2023年09月11日 22:21

 岩波少年文庫。作者は『秘密の花園』のバーネット。時代は漠然とだが一九世紀末から二〇世紀初頭。自動車はまだ一般化していない。ロリスタン父子は政情不安な祖国サマヴィアの再興を願いながら、ヨーロッパを転々として暮らしていた。
 この父子は最初から完璧な理想的人物として描かれる。つまり、主人公の成長を描く教養小説ではなく、昔の児童文学によくある、理想的な子供が苦労する話である。その代わりではなかろうが、主人公のマルコが出会った足の不自由な少年ラットは、この出会いをきっかけに貧民の不良少年から成長を始める。
 父ステファンも関わっているサマヴィア復興のために活動している「秘密組織」のメンバーに重要な伝言を伝えるという使命を帯びて、マルコとラットはヨーロッパ中を旅する任務に就く。
 サマビィアには「いつか、五百年前に姿を消した「消えた王子」の子孫が姿を現して、祖国を立て直す」という伝説があった。典型的な貴種流離譚だが、典型だから退屈かと言うとそんなこともない。人物が活き活きと描かれているからということもあろうが、やはり、神話元型的なものの持つ普遍性のようなものが人の心に働きかけるということもあるのではなかろうか。
 サマヴィア再興に関して、マルコとラットの果たした役割がもう少し具体的にわかればもっとカタルシスがあったであろう。

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