奥泉光著『葦と百合』2019年07月31日 17:39

14年 9月 7日読了。
 現代社会を否定し、自給自足の理想社会を目指すコミューン運動。その活動の中に去って行ったかつての恋人の面影を求めて、式根はダムに沈もうとする山奥の村を訪れた。宿泊する事に成った地方有力者の家に関る言い伝えが、式根を奇妙な事件に巻き込んで行く。
 一番面白いのは、幻覚作用を持つ茸の影響で、何が本当の事なのかが揺らぎ始め、自己の存在まで危うくなっていく処である。戯れに吐いた思い付きの嘘が現実に影響を与え、過去まで歪め始める。現実の中で虚構として語られた筈の物が現実を飲み込んで行く入れ子構造。外側と内側の逆転。存在した筈の人、存在しなかった筈の人。入れ替わる人物。物語は唯一の真実に辿り着く事はなく、どこまでも拡散していく。複数の幻想がせめぎ合い、現実らしき物を覆い隠す。百合の花が女性器のイメージと宇宙船のイメージを繰り返し転換していく処も面白い。

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