北野勇作著『この世界は何だ!? じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』 ― 2021年10月06日 21:15
19年 6月19日読了。
たった100字でも、北野勇作独特の薄ぼんやりした感じが顕れるのは面白い。要点は「いかに正解に辿り着かないか」で在ろう。或いは「正解がない事を戸惑いつつも受け入れる」か。はたまた「正解を探すと自分が怪しくなる」とか。要するに「世界にも自分にも足場がない」のである。
たった100字でも、北野勇作独特の薄ぼんやりした感じが顕れるのは面白い。要点は「いかに正解に辿り着かないか」で在ろう。或いは「正解がない事を戸惑いつつも受け入れる」か。はたまた「正解を探すと自分が怪しくなる」とか。要するに「世界にも自分にも足場がない」のである。
古川日出男著『ミライミライ』 ― 2021年10月07日 21:38
19年 6月21日読了。
歴史改変小説。戦後、講和実現のため、日本がインドと連邦国家を形成するという設定。読みどころはしかし「ある時一匹の熊が一人の人間の身代わりとなって死に、それが奇妙な因縁を形作って、未来に影響を与え続ける」処であろう。
第二次世界大戦後、日本は本州以南をアメリカが、北海道をソ連が占領していた。朝鮮のように分断される事を避けるため、日本はインドと融和して連邦国家を創る。インドにも思惑が在った。カシミールにおいて国境問題を持つ中国を挟み撃ちにできる。こうして、沖縄をアメリカに、北海道をソ連に占領された「印日連邦・日本州」が誕生する。
亜大陸と日本の交流も深まりそれなりに巧くいっていた連邦制度だが、インドが核兵器を保有したときに亀裂が生じる。
鱒淵いずる大佐は終戦後も北海道で抗ソ武力闘争を続けていた。東西冷戦が深まる中アメリカから資金援助が在った。闘争は娘の鱒淵てふに受け継がれ、ソ連が消滅するまで続けられる。
てふの息子は六歳のとき、闘争に巻き込まれて死んだ少年の身代わりとなり、名を澤太伊知と変え別人になった。成長した太伊知は、日本、アメリカ、ロシア、インド、アイヌの文化的影響を受けた新しいヒップホップ音楽の流れを作り出す。太伊知のバンドは世界的な影響力を持つが、ある時メンバーの一人が誘拐される。誘拐犯の要求は「日本に核兵器を配備せよ」。これは政治的な事件であり、いかに世界的な人気があるとは言え、音楽家にすぎない太伊知達は無力に見えた。しかし。
小説はこのように時系列には語られず、過去と未来を行き来しながら断続的並行的に展開する。「むかしむかし」と語り出された物語は、やがて「みらいみらい」と語られ、そして「今」と成る。
多くの人が幻視する、コロポックルと熊人間。バンドのDJの妹は「映画の巫女」と成り、あらゆる映画の編集前の断片である「第○(ゼロ)の映画」を夢に見る。そこにも熊人間が主人公として登場する。
鱒淵いずる大佐が死に際して時間旅行を行う事を除けば、物質的には極端に神秘的な事、超自然的な事は余り起こらない。しかし、夢や幻視は時間を越えた啓示を人々に与え、行動を変化させる。
歴史改変小説。戦後、講和実現のため、日本がインドと連邦国家を形成するという設定。読みどころはしかし「ある時一匹の熊が一人の人間の身代わりとなって死に、それが奇妙な因縁を形作って、未来に影響を与え続ける」処であろう。
第二次世界大戦後、日本は本州以南をアメリカが、北海道をソ連が占領していた。朝鮮のように分断される事を避けるため、日本はインドと融和して連邦国家を創る。インドにも思惑が在った。カシミールにおいて国境問題を持つ中国を挟み撃ちにできる。こうして、沖縄をアメリカに、北海道をソ連に占領された「印日連邦・日本州」が誕生する。
亜大陸と日本の交流も深まりそれなりに巧くいっていた連邦制度だが、インドが核兵器を保有したときに亀裂が生じる。
鱒淵いずる大佐は終戦後も北海道で抗ソ武力闘争を続けていた。東西冷戦が深まる中アメリカから資金援助が在った。闘争は娘の鱒淵てふに受け継がれ、ソ連が消滅するまで続けられる。
てふの息子は六歳のとき、闘争に巻き込まれて死んだ少年の身代わりとなり、名を澤太伊知と変え別人になった。成長した太伊知は、日本、アメリカ、ロシア、インド、アイヌの文化的影響を受けた新しいヒップホップ音楽の流れを作り出す。太伊知のバンドは世界的な影響力を持つが、ある時メンバーの一人が誘拐される。誘拐犯の要求は「日本に核兵器を配備せよ」。これは政治的な事件であり、いかに世界的な人気があるとは言え、音楽家にすぎない太伊知達は無力に見えた。しかし。
小説はこのように時系列には語られず、過去と未来を行き来しながら断続的並行的に展開する。「むかしむかし」と語り出された物語は、やがて「みらいみらい」と語られ、そして「今」と成る。
多くの人が幻視する、コロポックルと熊人間。バンドのDJの妹は「映画の巫女」と成り、あらゆる映画の編集前の断片である「第○(ゼロ)の映画」を夢に見る。そこにも熊人間が主人公として登場する。
鱒淵いずる大佐が死に際して時間旅行を行う事を除けば、物質的には極端に神秘的な事、超自然的な事は余り起こらない。しかし、夢や幻視は時間を越えた啓示を人々に与え、行動を変化させる。
藤田祥平著『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』 ― 2021年10月08日 21:57
19年 6月23日読了。
長編。カバー袖には「自伝的青春小説」とある。主人公の名前も著者と同じなので、まあそういう事であろう。著者はまだ二十代だが、現代の日本では波乱に満ちた人生といって良いであろう。
黎明期のネットゲームに熱中し、世界のプレイヤーを相手にトップを争う。実人生では高校を中退後、大検を受けて芸術系の大学に入学し、小説作法を学ぶ。東日本大震災後、精神を病んだ母親が自殺し、主人公自身も鬱傾向に成り自殺を考えるように成る。
と、筋立て自体も興味深いのだが、最も面白いのは、その描き方である。最初からメタフィクション的な「予兆」のような処はあるのだが、母親の自殺以後、どこまでが現実でどこまでがゲームの世界なのか境界が曖昧になっていく。主人公にとってはそれが実感なのであろう。現実とゲームの「重み付け」のバランスがおかしいのだが、どうも単純な「苦しい現実からの逃避」でもなさそうなのである。
「いずれ必ず死ぬ人生にどんな意味があるか」というのは誰しも考える根源的哲学問題の一つだが、ゲームプレイヤーたちは「何の生産性もないゲームに夢中になっている自分」を客観視する事で、極若い内からその問題が切実性を持つ。主人公にとっては、ゲームの世界もリアルの世界に劣らぬ「意味在る経験」つまり人生なのである。
主人公が「この世界がゲームだとしたら、プレイヤーとしての神を想定せざるを得ない」と発想する処は、とても面白い。着想自体は新しくないが、そこへ至る思考や経験の過程が面白いのである。
主人公、或いは著者は、大学で創作を学んでいる事からも判るがゲームに劣らず文学にも強い(悪)影響を受けているのだが、その部分は師匠である文学教授との関係に集約されていて、あっさりと描かれている。いずれ、この部分を中心にした作品も読んでみたい。
「この小説を書き終えるまで、おれもおまえも、ここから出られないんだぞ!」(p.46)。
長編。カバー袖には「自伝的青春小説」とある。主人公の名前も著者と同じなので、まあそういう事であろう。著者はまだ二十代だが、現代の日本では波乱に満ちた人生といって良いであろう。
黎明期のネットゲームに熱中し、世界のプレイヤーを相手にトップを争う。実人生では高校を中退後、大検を受けて芸術系の大学に入学し、小説作法を学ぶ。東日本大震災後、精神を病んだ母親が自殺し、主人公自身も鬱傾向に成り自殺を考えるように成る。
と、筋立て自体も興味深いのだが、最も面白いのは、その描き方である。最初からメタフィクション的な「予兆」のような処はあるのだが、母親の自殺以後、どこまでが現実でどこまでがゲームの世界なのか境界が曖昧になっていく。主人公にとってはそれが実感なのであろう。現実とゲームの「重み付け」のバランスがおかしいのだが、どうも単純な「苦しい現実からの逃避」でもなさそうなのである。
「いずれ必ず死ぬ人生にどんな意味があるか」というのは誰しも考える根源的哲学問題の一つだが、ゲームプレイヤーたちは「何の生産性もないゲームに夢中になっている自分」を客観視する事で、極若い内からその問題が切実性を持つ。主人公にとっては、ゲームの世界もリアルの世界に劣らぬ「意味在る経験」つまり人生なのである。
主人公が「この世界がゲームだとしたら、プレイヤーとしての神を想定せざるを得ない」と発想する処は、とても面白い。着想自体は新しくないが、そこへ至る思考や経験の過程が面白いのである。
主人公、或いは著者は、大学で創作を学んでいる事からも判るがゲームに劣らず文学にも強い(悪)影響を受けているのだが、その部分は師匠である文学教授との関係に集約されていて、あっさりと描かれている。いずれ、この部分を中心にした作品も読んでみたい。
「この小説を書き終えるまで、おれもおまえも、ここから出られないんだぞ!」(p.46)。
山本弘著『プラスチックの恋人』 ― 2021年10月09日 22:52
19年 6月24日読了。
長編。セックスという、当事者同士の個人的な物でありながら、倫理的な物として社会が口を挟みたがる、この奇妙な行為に、科学技術が新たな形態を持ち込んだとき、どんな事が起こるのかという一種のシミュレーション小説。
人工意識を備えたAIに制御される人間そっくりのロボットに依る性的サービスが提供されている近未来。先進国の中では児童ポルノの規制が緩い日本では、子供の姿をしたセックスロボット「マイナー・オルタ」の利用が始まっていた。これに関して世間では、主に倫理的、犯罪抑止的な観点から、反対派と擁護派の議論と対立が起こっていた。
主人公は駆け出しの若い女性フリージャーナリスト。彼女は雑誌編集者からマイナー・オルタと実際にセックスしてみるという取材を依頼される。たとえロボットであっても子供との性交に抵抗を感じる主人公だったが、取材に意義を感じて引き受ける。最初は取材と割り切っての体験だったが、彼女は忽ちそのマイナー・オルタ、ミーフに夢中になる。
その一方で関連する取材も進め、実際にマイナー・オルタを利用している擁護派や、性的虐待の過去を持つ反対派の「黒マカロン」、ロボットに依る性的サービス施設の経営者などにインタビューする。利用者の中には子供への性的虐待志向を持つ異常性欲者も居たが、黒マカロンや経営者はそういう攻撃性や異常性はなく、主張は異なるが正当化やすり替えで誤魔化そうとしない、フェアな議論をする常識的な人物だった。
主人公は取材を進める中で「疑似的とは言え子供の虐待を可能にするこのサービスへの嫌悪感」と「自分のミーフへの愛」との折り合いが付けられずに宙ぶらりんになる。しかし、黒マカロンの策略で事態は急展開を迎える。
新しい性の形の登場と、社会の反応という面では良く描けていると思うし面白かった。最後のミーフの言葉に反して、人間よりロボットの方が知性としての格が上に感じる結末。
でも、俺の趣味としては読後感がちょっと軽い。例えば、マイナー・オルタとの性交経験は、マイナー・オルタへの愛を深めるだけで、主人公に新たなセックス観や人間観を与えるわけではない。つまり、社会的な問題が中心で、人間にとって性とは何か、という問題には深入りしない。
また「おそらく意識を持っているだろうと思われるのに、その質が違いすぎるために、人間とは相互理解できない異種知性」と共存する事、というSFとして面白い主題もあるのだが、これもあっさり流される。
全般にシリアスに展開するが、これは視点をずらすと大変な喜劇の筈なので、それも描いて欲しかった。無い物ねだりばかりだが、山本弘なら無茶な要望でもあるまい。
ロボットたちはバッテリー駆動なので行動範囲に制限が在るが、ピアノ・ドライブを内蔵すればどこまで行ける、と思った。
長編。セックスという、当事者同士の個人的な物でありながら、倫理的な物として社会が口を挟みたがる、この奇妙な行為に、科学技術が新たな形態を持ち込んだとき、どんな事が起こるのかという一種のシミュレーション小説。
人工意識を備えたAIに制御される人間そっくりのロボットに依る性的サービスが提供されている近未来。先進国の中では児童ポルノの規制が緩い日本では、子供の姿をしたセックスロボット「マイナー・オルタ」の利用が始まっていた。これに関して世間では、主に倫理的、犯罪抑止的な観点から、反対派と擁護派の議論と対立が起こっていた。
主人公は駆け出しの若い女性フリージャーナリスト。彼女は雑誌編集者からマイナー・オルタと実際にセックスしてみるという取材を依頼される。たとえロボットであっても子供との性交に抵抗を感じる主人公だったが、取材に意義を感じて引き受ける。最初は取材と割り切っての体験だったが、彼女は忽ちそのマイナー・オルタ、ミーフに夢中になる。
その一方で関連する取材も進め、実際にマイナー・オルタを利用している擁護派や、性的虐待の過去を持つ反対派の「黒マカロン」、ロボットに依る性的サービス施設の経営者などにインタビューする。利用者の中には子供への性的虐待志向を持つ異常性欲者も居たが、黒マカロンや経営者はそういう攻撃性や異常性はなく、主張は異なるが正当化やすり替えで誤魔化そうとしない、フェアな議論をする常識的な人物だった。
主人公は取材を進める中で「疑似的とは言え子供の虐待を可能にするこのサービスへの嫌悪感」と「自分のミーフへの愛」との折り合いが付けられずに宙ぶらりんになる。しかし、黒マカロンの策略で事態は急展開を迎える。
新しい性の形の登場と、社会の反応という面では良く描けていると思うし面白かった。最後のミーフの言葉に反して、人間よりロボットの方が知性としての格が上に感じる結末。
でも、俺の趣味としては読後感がちょっと軽い。例えば、マイナー・オルタとの性交経験は、マイナー・オルタへの愛を深めるだけで、主人公に新たなセックス観や人間観を与えるわけではない。つまり、社会的な問題が中心で、人間にとって性とは何か、という問題には深入りしない。
また「おそらく意識を持っているだろうと思われるのに、その質が違いすぎるために、人間とは相互理解できない異種知性」と共存する事、というSFとして面白い主題もあるのだが、これもあっさり流される。
全般にシリアスに展開するが、これは視点をずらすと大変な喜劇の筈なので、それも描いて欲しかった。無い物ねだりばかりだが、山本弘なら無茶な要望でもあるまい。
ロボットたちはバッテリー駆動なので行動範囲に制限が在るが、ピアノ・ドライブを内蔵すればどこまで行ける、と思った。
ウィル・バッキンガムほか著『哲学大図鑑』 ― 2021年10月10日 22:48
19年 6月28日読了。
世界の主な哲学者を歴史の登場順に紹介しているが、主題毎の流れも見失わないように工夫されている。そういう意味では「哲学史の案内」として大変に良くできている。しかし、紹介の仕方が表面的で、個々の哲学の魅力が充分に伝わっているとは言い難い。難しいものだ。
世界の主な哲学者を歴史の登場順に紹介しているが、主題毎の流れも見失わないように工夫されている。そういう意味では「哲学史の案内」として大変に良くできている。しかし、紹介の仕方が表面的で、個々の哲学の魅力が充分に伝わっているとは言い難い。難しいものだ。
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