神林長平著『インサイト 戦闘妖精・雪風』2026年04月29日 22:23

 長編。「戦闘妖精雪風」シリーズ第五巻。フェアリイ星からジャムの姿が消えた。しかしジャムがいなくなったわけではない。姿が見えなくなっただけだ。同じように見えないジャムは地球にも侵攻していると、FAF特殊戦は判断している。特殊戦司令官クーリィ准将は、ジャムを炙り出すため、日本空軍パイロット田村伊歩大尉に雪風を操縦させる。彼女の「ジャムを見る能力」に期待したのだ。ジャムになった男・ロンバート大佐の他に、新種のジャムも登場し、深井零大尉はついに「ジャムの正体」を直観する。
 初期の神林長平は「世界が存在することが疑わしい感じ」を描いていたが、その後、主題は「自分の存在への疑い」へと展開している。雪風シリーズもその方向に進んでいくのかと思ったら、今回の主題はむしろコミュニケーションである。「他者の存在によって自分の存在が確かめられる」というのはよくある主題だが、ここでいう他者というのは、異星体や機械知性など、人類以外の知的存在である。さらに、異質な知性とのコミュニケーションといっても、よくある、神秘的でロマンチックな共感ではなく。「雪風の行動を理解するために、雪風用のミラーニューロンを準備する」というような、筋は通っているような気もするが、感覚的には奇怪な理屈が展開する。こういう「どこが間違っていると指摘することはできないが、何となくどこかが間違ってる気がする理屈」は神林長平の魅力の一つである。
 これも神林長平の魅力の一つだが、ブリーフィングなど会話の場面が多い。それどころか「相手を理解するための雑談の効果」というのが今回の主題の一つになっている。機械知性である雪風が人間と雑談しようと試みる場面もある。
 ジャムとの戦闘を経験している特殊戦の隊員や、田村伊歩大尉、長年対ジャム戦を取材しているリン・ジャクソンたちの議論は、ジャムとの戦闘経験のない日本海軍情報部の丸子璃梨華中尉には、荒唐無稽に聞こえる。丸子璃梨華は繰り返しそれを指摘する。その内容は「あなたたちの議論は、ジャムの正体というような抽象的なレベルと、ジャムとどう戦うかという具体的なレベルが混乱している」というようなものである。おそらくこれはどちらが正しいというものではなく、立場や視点の違いを表している。強いて言えば「ジャムを倒せる方」が正しい。
 気が狂いそうに面白い。こんなのばかり百も二百も読みたい。

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