梨木香歩著『歌わないキビタキ 山庭の自然誌』2023年12月10日 22:59

 エッセイ集。副題に「山庭の自然誌」とあるように、主題は身近な自然についてである。全体的な印象として、自然を人間あるいは著者に引き寄せすぎているように感じる。倫理や美や感傷は人間の側にあるのであって、自然の側にはない。そういったものは人間が自然に投影しているのであって、自然の方からやってくるように感じるのは錯覚である。
 こういう言い方をすると批判しているようだがそうではない。こういう態度は、科学者として、あるいは実践的な自然保護活動家としては間違っているだろうが、著者はそのどちらでもないからである。人は、特に日本人は自然に自分の気持ちを、意識的無意識的に投影する。それが日本の文学者の伝統的立場であろう。
 著者はそのことに自覚的である。頭のどこかで自分の感情は非合理だと知りながら、可愛いんだからしようがないじゃん、と思っている。妥協でも諦めでも開き直りでもなく、人間の自然な感情を受け入れている。
 そういう自然とのかかわりの中に、自らの闘病や母親の介護、阿部元首相の銃撃事件、ウクライナの戦争などが影を落としていく。もちろん、パンデミックも。
 「「ずっと劣勢に立っていた」。一生を総括する言葉として胸を張って墓碑銘にしてもいいくらいだ。しないけれど」(p.52)。

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