『J・G・バラード短編全集5近未来の神話』2021年05月02日 22:32

18年 7月13日読了。
 一九七七から一九九六年に発表された作品を収録。全体に読み易く成った。文章が変わったのか俺が慣れたのか。まあ両方であろう。判り易く成った分、謎めいた感じは目減りした。著者の年齢のせいか、初期のひりひりした「切実さ」も薄れ、頭で拵えたような感じもある。必ずしも悪い事ではないが、ある面の魅力が薄れた事も事実であろう。
 相変わらず、廃墟と成ったリゾート、砂漠、ぎすぎすした夫婦関係、宇宙からの帰還などが繰り返し描かれる一方、「交戦圏」「戦争熱」では、戦争という主題が扱われている。
 「太陽からの知らせ」「宇宙時代の記憶」「近未来の神話」は同じ主題の変奏で、時間感覚の変容の描写という困難な事に挑戦している。面白いのは、その変化は宇宙へ行く事で齎されるのだが、実現されるのは地上なのである。拡張されるべきは空間ではなく時間であるという著者の直感であろうか。
 もう一つ興味深いのは、飛行機がその変容への抵抗として描かれている事である。空間に依る時間への抵抗。

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