吉田知子著『お供え』2019年09月11日 23:09

14年11月26日読了。
 短編集。表題作では、一人暮らしの未亡人の家の前に毎日花が置かれる。気味悪く思った未亡人は何とか犯人を見つけてやめさせようとするが。「祗樹院」では、初めて来た場所なのに何故か克明な記憶があり、主人公は混乱していく。日常の世界から徐々に不条理な世界へ入り込んで行き、抜け出そうとするほど深みに嵌まっていく、というのが基本パターン。抜け出せない迷子の悪夢。古い大きな家や田舎の集落、何かの儀式を行う大勢の人々といった土俗的雰囲気。記憶や時間の錯綜も繰り返される。発表された当時この言葉はなかった筈だが、マジックリアリズムである。また、主人公が、今なら引き返せる、とか、今断った方が良いと思いながらそうしないのも特徴。狂っていくのが主人公なのか世界の方なのか判らないのが何とも無気味。

吉田知子著『満州は知らない』2019年09月12日 23:34

14年11月27日読了。
 三編収録。表題作では、理想的とは言えないが大きな問題もない平凡な家庭の主婦が主人公。彼女は五歳の時に満州から血縁ではないらしい女に連れられて引き上げてきて、両親の顔も覚えていない。今はまずまず幸せと言っても良い家庭を築きながら、明確に成らない自分の出自が気掛かりで独自に調べ始める。ところが調べれば調べるほど自分が何者か判らなくなり、彼女の自己同一性は揺らぎ始める。調べるほどに苦しく成るのに、出自を確定しなければ現在の自分も肯定できないという強迫観念に捕われていくのである。
 収録された三編とも引揚者や中国残留孤児を扱っていて、国籍と自己同一性の問題を主題にしている。『お供え』に収録された作品のような幻想性はないが、不条理感はたっぷりある。

吉田知子著『風のゆくえ』2019年09月13日 21:52

14年11月29日読了。
 長編。結婚して五年目の主婦が主人公。夫とも実の子供ともコミュニケーションが巧くいかず距離を感じている。どこに居ても自分が巧く収まっていない感じ。彼女に次々と危機が訪れるが、実は彼女が危機だと思い込んでいるだけである。幸福に成るのが下手な人の物語。

加藤幸子著『ジーンとともに』2019年09月15日 00:01

14年12月 1日読了。
 短編集。巻頭の「主人公のいない場所」は単行本で三頁ほどの掌編を集めたオムニバス。いずれも幻想的な物だが、結末が付いていない物が多く中ぶらりんな気分に成る。それが気持ち良い。「ジーンとともに」は、架空の鳥の一生が鳥の視点で描かれる。過度に擬人化されない、と言うか、鳥の行動と気持ちを人間の言葉に翻訳した、とでも言うべき文章で、大変に面白い。

『女性作家シリーズ16 吉田知子 森万紀子 吉行理恵 加藤幸子』2019年09月15日 22:10

14年12月 4日読了。
 揃いも揃って自閉的な話ばかりである。世代と関係あるのだろうか。いずれも幼少期に終戦を迎えている。ただ、他の三人の作品の主人公が皆酷く空虚なのに対して、加藤幸子の描く主人公は内部に何かが充溢している。「海辺暮らし」の老婆などは積極的攻撃自閉とでも言うべき境地にある。