酉島伝法著『奏で手のヌフレツン』2025年03月14日 22:08

 長編。酉島伝法、相変わらず読みにくく、相変わらずのその読みにくさが面白い。いつものように異世界を描写するのに造語の漢字熟語が駆使される。漢字は表意文字だから、説明しなくても何となく意味するところが判る、ような気がする。しかしはっきりとは判らない。もどかしくも気持ちいいところである。
 今回の登場「人物」たちは、基本的な体形は人類と同じ、目と耳は二つずつ、鼻と口は一つずつあり、手と足が二本ずつある。人類との最大の違いは、性別がなく、無性生殖をするところである。幼少期は完全な再生能力があるが、大人になるとそれが失われるなど、彼らの生理や生活が細かく描写されるところはちょっとイーガンのようである。この世界の環境に合わせた奇怪な生活、習慣、社会、儀礼などがあるが、年寄りが保守的で若者は革新的など、人類社会と共通するところも多い。
 この世界が球殻の内側に作られたある種のスペースコロニーであることは、SFファンなら読み始めてすぐに判る。遠心力によって疑似重力を発生させているので、回転軸は無重力で、中空に「毬森」と呼ばれる植物の絡まったものが浮かんでいる。中心に森があるのなら太陽はどこにあるのかというと地上に複数あって、足が生えていて歩いている。太陽の通り道はいうまでもなく黄道である。球殻の内側をぐるりと巡る黄道を、太陽は歩いて周回しながら、地上に熱と光を供給する。
 太陽の消えた共同体から別の共同体へと移住してきた難民の一家の、数世代にわたる物語が語られながら、この世界の成り立ちが少しずつ明らかにされていく。意外なことに、酉島伝法、赤ん坊の描写が巧い。

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