ヤロスラフ・オルシャ・Jr.+ズデニェク・ランパス編『チェコSF短編小説集2 カレル・チャペック賞の作家たち』 ― 2024年07月02日 22:09
八十年代のチェコスロバキアのSF短編を集めた日本オリジナルアンソロジー。ソ連ではゴルバチョフのペレストロイカが始まった時代だから、希望に満ちた開放的な作品が多いかと思ったら、救いのないディストピアを扱ったものが多い。あらら。歴史的に、何度もぬか喜びさせられてきたから、単純に楽観はできなかったのか。結果的には先見の明があったということになるが。SFとしては素朴なもの、バランスのおかしいものも目立つが、さすがはカレル・チャペックの国、文学性は高い。
巻頭のオンドジェイ・ネフ「口径七・六にミリの白杖」は、「座頭市」から着想を得たという、盲目の射撃種が侵略者と戦うというアクションもの。
イジー・ウォーカー・プロハースカ「……および次元喪失の刑に処す」は、理不尽な罪によって次元を一つ奪われて「ぺらぺら」の二次元人になってしまった男の物語。喜劇のような設定だが、展開は重苦しい。結末部分の時空と人格が混乱した場面はシュールで面白い。
「新星」は、はっきりと喜劇。文学を知らない星に漂着した男が、うろ覚えの文学作品でその星々の人々を熱狂させる。
巻頭のオンドジェイ・ネフ「口径七・六にミリの白杖」は、「座頭市」から着想を得たという、盲目の射撃種が侵略者と戦うというアクションもの。
イジー・ウォーカー・プロハースカ「……および次元喪失の刑に処す」は、理不尽な罪によって次元を一つ奪われて「ぺらぺら」の二次元人になってしまった男の物語。喜劇のような設定だが、展開は重苦しい。結末部分の時空と人格が混乱した場面はシュールで面白い。
「新星」は、はっきりと喜劇。文学を知らない星に漂着した男が、うろ覚えの文学作品でその星々の人々を熱狂させる。
酉島伝法著『金星の蟲』 ― 2024年07月07日 22:00
短編集『オクトローグ』を改題文庫化。文庫化に際して追加されたイラストストーリー以外は再読。俺は酉島伝法の特徴を「胎内感」と表しているが、少し詳しく説明すると「臓器による閉塞感と圧迫感」である。どの作品も立派なSFなのだが、カフカ的な迷宮感覚がある。カフカは自作を朗読して爆笑したりしていたらしいが、酉島伝法の作品も、あがくほどに事態が悪化するような筒井康隆的な喜劇性がある。
今回新たに気付いたことは、「他律的な記憶の変容や制限」による不全感や苛立ちが繰り返し描かれているな、ということである。この本の中で一番好きなのは、自分という牢獄に閉じ込められる「環刑錮」であろうか。
酉島伝法と高山羽根子がいれば大丈夫だな。何が大丈夫なのかはよく判らぬが。
今回新たに気付いたことは、「他律的な記憶の変容や制限」による不全感や苛立ちが繰り返し描かれているな、ということである。この本の中で一番好きなのは、自分という牢獄に閉じ込められる「環刑錮」であろうか。
酉島伝法と高山羽根子がいれば大丈夫だな。何が大丈夫なのかはよく判らぬが。
マシュー・ベイカー著『アメリカへようこそ』 ― 2024年07月12日 21:51
短編集。巻頭の献辞に「祖国へ」とあるが、これは多分に皮肉を含む。収録作はいずれも、アメリカ合衆国を風刺した寓話的作品だからである。何しろ表題作からして、テキサスの小さな町がアメリカ合衆国から独立する話なのである。普通、こういう「ヘンテコな状況」を描く時には、登場人物は常識的に設定するものだが、この短編集ではほとんどの作品で、登場人物もなんだかズレている。
訳者あとがきで著者の「長く変則的で、非常にプログレッシヴ」な文章の魅力に触れているが、俺はしつこい列挙が面白かった。例えば「メイソンはいつも、他の兄弟とは違っていた。小さく、惰弱で、顔色の悪い子だった。そのころからすでに、あらゆることに泣きごとばかり並べていた。パズルが嫌いだ。工作が嫌いだ。食事となると好き嫌いがうるさく、果物は食べないし、野菜は嫌がるし、キャンディすら好きではなく、もっぱらシリアルとマカロニばかり食べていた」(p.73)という具合で、主人公の否定的な特徴ばかり延々一ページ以上改行なしで述べ続ける。これで退屈させないというのは結構な技である。
訳者あとがきで著者の「長く変則的で、非常にプログレッシヴ」な文章の魅力に触れているが、俺はしつこい列挙が面白かった。例えば「メイソンはいつも、他の兄弟とは違っていた。小さく、惰弱で、顔色の悪い子だった。そのころからすでに、あらゆることに泣きごとばかり並べていた。パズルが嫌いだ。工作が嫌いだ。食事となると好き嫌いがうるさく、果物は食べないし、野菜は嫌がるし、キャンディすら好きではなく、もっぱらシリアルとマカロニばかり食べていた」(p.73)という具合で、主人公の否定的な特徴ばかり延々一ページ以上改行なしで述べ続ける。これで退屈させないというのは結構な技である。
宮内悠介著『ラウリ・クースクを探して』 ― 2024年07月16日 21:35
ソ連の一部だったエストニアに生まれ、プログラマーとして天才的な才能を発揮しながらも、ソ連崩壊エストニア独立という時代の波に翻弄される人物の架空伝記。「ラウリは戦って歴史を動かした人間ではなく、逆に、歴史とともに生きることを許されなかった人間である。ある意味、わたしたちと同じように」(p.6)。宮内悠介は歴史や社会に疎外された人間を描く。当時、ソ連にあったコンピュータは日本製のMSXで言語はBASICだったというのも面白い。
高丘哲次著『最果ての泥徒』 ― 2024年07月20日 21:06
長編。歴史改変もの。十九世紀末から二十世紀初頭の応酬。米国と日本もちょっと舞台になる。つまり当時の列強である。この世界では、泥で作って命を吹き込んだ泥徒(ゴーレム)と呼ばれる人造人間が労働力として使われている。ある日、泥徒の製造者であるイグナツが殺され、泥徒の最重要部品である「原初の礎版」が盗まれる。イグナツの娘マヤは、礎版を取り戻すため、自らが作り出した泥徒のスタルィを連れ、姿を消した父の弟子たちを追い始める。泥徒が労働力として組み込まれた社会が丁寧に作りこまれていて面白いが、この設定だとどうしても『屍者の帝国』を連想してしまってつらいところである。
『帝都物語』もそうだが、近現代史にオカルトが組み合わされた設定は奇妙に魅力的である。
『帝都物語』もそうだが、近現代史にオカルトが組み合わされた設定は奇妙に魅力的である。
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