ルシア・ベルリン著『掃除婦のための手引書』2022年03月04日 22:23

20年 8月 1日読了。
 短編集。自分の経験を題材に取った、日本で言えば私小説。孤独や死やアルコール中毒を扱った、主題的には暗い話が多いのだが、奇妙にユーモラスでもある。出来事から距離を置いて客観的に書いている、というだけでもない。自虐的なのだが、意地悪く自分を攻撃するというよりも、冷たく突き放すような感じ。面白い距離感である。
 幼少期から、北米大陸を流浪し、三回の結婚と離婚をし、四人の子供を育てながら、多くの職を転々とし、アルコール中毒に苦しんだ。波乱万丈の人生である。このため精神の不安定な主人公も魅力的だが、母親が面白い。母親も極端な豊かさと貧しさを経験した歪んだ精神の持ち主で、主人公と妹を虐待する。冷酷な母親なのだが、奇妙なユーモア感覚がある。
 「ママ、あなたはどこにいても、誰にでも、何にでも、醜さと悪を見いだした。狂っていたの、それとも見えすぎていた? どちらにしても、あなたみたいになるのは耐えられない。わたしはいま恐れている……だんだん美しいものや正しいものを感じられなくなっていくようで」(p.175「苦しみの殿堂」)。
 「町からの帰り道、あなたは無知で野暮なフィンランド人どもを家に着くまでこき下ろしつづけた」(p.176 同)。
 「母は変なことを考える人だった。人間の膝が逆向きに曲がったら、椅子ってどんな形になるかしら。もしイエス・キリストが電気椅子にかけられてたら? そしたらみんな、十字架のかわりに椅子で鎖を首から下げて歩きまわるんでしょうね」(p.202 「ママ」)。
 「ママは“愛”って言葉が大嫌いだった。ふつうの人“淫売”って言うみたいにその言葉を言ってたわ」(p.203 同)。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://castela.asablo.jp/blog/2022/03/04/9469429/tb