チゴズィエ・オビオマ著『ぼくらが漁師だったころ』 ― 2021年04月01日 21:58
18年 4月21日読了。
長編。著者はナイジェリア出身米国在住。一九九〇年代、ナイジェリアの小さな町に住む家族の悲劇を描く。街を浮浪する狂人の予言に依って、子供達の精神が崩壊を始めるのである。子供達の見ている世界と、両親の見ている世界の落差が面白い。
また、重要な役割を果たす狂人の描き方も面白く、忌むべき物とも聖なる物とも固定されずに揺れ動いている。本人には悪意も善意もないらしいが、彼の奇矯な言動は人々に激烈な反応を引き起こす。いずれにしても、一般の人々よりも霊的な世界に近い者として描かれる。不具者や精神障害者の霊性は、文化人類学的に一般性が在る。
ナイジェリアの現代史に対する隠喩なども含まれているらしく、繰り返されるクーデターやビアフラ戦争などへの言及もあるが、俺の不勉強でその辺りは良く判らないが、不条理感を払い除けようと足掻く子供達の気持ちは良く伝わって来る。予言や運命を扱っているためか、何となく神話のような雰囲気も漂う。
長編。著者はナイジェリア出身米国在住。一九九〇年代、ナイジェリアの小さな町に住む家族の悲劇を描く。街を浮浪する狂人の予言に依って、子供達の精神が崩壊を始めるのである。子供達の見ている世界と、両親の見ている世界の落差が面白い。
また、重要な役割を果たす狂人の描き方も面白く、忌むべき物とも聖なる物とも固定されずに揺れ動いている。本人には悪意も善意もないらしいが、彼の奇矯な言動は人々に激烈な反応を引き起こす。いずれにしても、一般の人々よりも霊的な世界に近い者として描かれる。不具者や精神障害者の霊性は、文化人類学的に一般性が在る。
ナイジェリアの現代史に対する隠喩なども含まれているらしく、繰り返されるクーデターやビアフラ戦争などへの言及もあるが、俺の不勉強でその辺りは良く判らないが、不条理感を払い除けようと足掻く子供達の気持ちは良く伝わって来る。予言や運命を扱っているためか、何となく神話のような雰囲気も漂う。
神林長平著『オーバーロードの街』 ― 2021年04月02日 22:14
18年 4月24日読了。
神林長平にしては消化不良の感。盛り沢山にし過ぎて焦点がぼけたか。〈地球の意志〉と名乗る正体不明の敵に情報システムを撹乱され、自動機械を乗っ取られた人類は滅亡の危機を迎える、という筋立てだが、パニック小説ではなく、描かれるのは日本のごく狭い地域だけ、主要な登場人物も数人である。
この異常な状況の中で展開するのは、虐待された娘とした母親の関係である。相互に関係し合う二つの、或いは二つ以上の世界が在り、主人公の少女は両者にまたがって存在しているらしい。作中では「仮想世界」などとも呼ばれるが、どちらが現実なのかは明確ではないし、両方とも現実或いは両方とも仮想かも知れない。二つの世界は平行して存在しながら重なり合ったり離れたりしているようだ。
その辺りは何も明確に成らないし、〈地球の意志〉の正体も最後まで焦点を結ばない。それは神林作品を特徴付ける独特の不条理感や酩酊感を生み出すので欠点ではない。我々の現実はそういう曖昧さの上で危ういバランスを取って浮かんでいるのであり、バランスを崩せば忽ちこの作品のような不条理に沈むという気にさせられる。我々には「世界」の極一部しか見えていないし、科学は更に視野を狭めている可能性すら在る。作品中に散りばめられている、神林らしい奇妙な歪んだ印象の議論も何時もながら面白い。
登場人物としては、主人公の母親が抜群に面白い。利己的で傲慢なのだが、それを自分で良く自覚していて、責任逃れをしない。善か悪かと言えば悪だろうが、潔くいっそ清々しい。
神林長平にしては消化不良の感。盛り沢山にし過ぎて焦点がぼけたか。〈地球の意志〉と名乗る正体不明の敵に情報システムを撹乱され、自動機械を乗っ取られた人類は滅亡の危機を迎える、という筋立てだが、パニック小説ではなく、描かれるのは日本のごく狭い地域だけ、主要な登場人物も数人である。
この異常な状況の中で展開するのは、虐待された娘とした母親の関係である。相互に関係し合う二つの、或いは二つ以上の世界が在り、主人公の少女は両者にまたがって存在しているらしい。作中では「仮想世界」などとも呼ばれるが、どちらが現実なのかは明確ではないし、両方とも現実或いは両方とも仮想かも知れない。二つの世界は平行して存在しながら重なり合ったり離れたりしているようだ。
その辺りは何も明確に成らないし、〈地球の意志〉の正体も最後まで焦点を結ばない。それは神林作品を特徴付ける独特の不条理感や酩酊感を生み出すので欠点ではない。我々の現実はそういう曖昧さの上で危ういバランスを取って浮かんでいるのであり、バランスを崩せば忽ちこの作品のような不条理に沈むという気にさせられる。我々には「世界」の極一部しか見えていないし、科学は更に視野を狭めている可能性すら在る。作品中に散りばめられている、神林らしい奇妙な歪んだ印象の議論も何時もながら面白い。
登場人物としては、主人公の母親が抜群に面白い。利己的で傲慢なのだが、それを自分で良く自覚していて、責任逃れをしない。善か悪かと言えば悪だろうが、潔くいっそ清々しい。
北野勇作著『大怪獣記』 ― 2021年04月03日 21:56
18年 4月26日読了。
全体にとぼけた味のメタフィクション。俺達の世代は筒井チルドレンだから、どうしてもメタフィクション的に成るのだろう。作家である主人公の住む街で進行する、「映画制作」と称される奇怪な何か。主人公はそれが何であるのか良く判らぬ内に深く関り合っていく。北野勇作らしい、全体像が見通せない薄ぼんやりした(褒め言葉)話。
主人公の妻の性格、と言うより、物語に於ける位置が面白い。主人公に取っては親しい妻なのだが、その他の登場人物達は何となく恐れている。
ところで、この作品は創土社の「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」というシリーズの一冊として出版されているが、それがどんな物なのかという説明がどこにも書いてない。いやまあ大体想像は付くけど。
全体にとぼけた味のメタフィクション。俺達の世代は筒井チルドレンだから、どうしてもメタフィクション的に成るのだろう。作家である主人公の住む街で進行する、「映画制作」と称される奇怪な何か。主人公はそれが何であるのか良く判らぬ内に深く関り合っていく。北野勇作らしい、全体像が見通せない薄ぼんやりした(褒め言葉)話。
主人公の妻の性格、と言うより、物語に於ける位置が面白い。主人公に取っては親しい妻なのだが、その他の登場人物達は何となく恐れている。
ところで、この作品は創土社の「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」というシリーズの一冊として出版されているが、それがどんな物なのかという説明がどこにも書いてない。いやまあ大体想像は付くけど。
クリストファー・プリースト著『隣接界』 ― 2021年04月04日 22:56
18年 5月 3日読了。
長編。相互に矛盾する幾つもの「現実」が描かれるが、『夢幻諸島から』よりは数段読み易い。それを物足りないと思う読者も居るだろうが。登場人物が重なり合い入れ替わりながらずれている処などは奥泉光的。信頼できない自分自身の記憶が主人公を追い詰めていく。同じ世界に複数の同一人物が現われる第六部と、幾つもの世界が重なり合わされる不思議な島が描かれる第七部に於いて最も緊張感が高まるが、この結末はないんじゃないの。「解決」は求めないけど「展開」が欲しい。
長編。相互に矛盾する幾つもの「現実」が描かれるが、『夢幻諸島から』よりは数段読み易い。それを物足りないと思う読者も居るだろうが。登場人物が重なり合い入れ替わりながらずれている処などは奥泉光的。信頼できない自分自身の記憶が主人公を追い詰めていく。同じ世界に複数の同一人物が現われる第六部と、幾つもの世界が重なり合わされる不思議な島が描かれる第七部に於いて最も緊張感が高まるが、この結末はないんじゃないの。「解決」は求めないけど「展開」が欲しい。
G・ウィロー・ウィルソン著『無限の書』 ― 2021年04月05日 22:44
18年 5月 7日読了。
長編。なかなか面白かった。部隊は中東の架空の国〈シティ〉。現代の電子情報技術と、前近代的な社会整備の遅れが同居している、中東独特の状況。神秘的なファンタジーの世界とコンピュータネットワーク技術が重ね合わされる。世界を変え得る力を持つという賢者の石の如き書物をプログラムコードに変換するという着想が面白い。登場する魔物達は、何だかみんな人が良い。
愚かだった少年が力強い男性に成長していくという教養小説でもあるが、主人公の男の子の頼りなさに比べて、ヒロインの聡明さが際立つ。男はみんな自分を見失った馬鹿者に見えるんだろうなあ。
魔界にもインターネットが在るのかと主人公が驚く処が妙に印象に残る。「従兄弟よ、われらはワイファイを使っている」(p.303)。
信仰するとはどういう事かという問題が屡々話題に成る。作品の主要な主題ではなく、もしかしたら作者は主題として意識していないのかも知れないのだが、イスラム教への改宗者である彼女には自然と出て来てしまう問題なのかも知れない。
結末は「アラブの春」を連想させる。インターネットが普及し始めた頃、この技術に依って情報格差は軽減され、権力者やエリートに依る情報支配は弱まり、情報的民主制や公正性が広まるだろうと期待され、ネット市民、ネチズンといった言葉も生まれた。現実には、期待はある程度実現したが予想したほどではなく、寧ろ、悪意在る利用者を大量に生みだした。
注目されるのは、ナショナリズムなど偏狭な思想の流布に利用される点である。情報の叛乱は、公正性よりも、自分の気に入る情報だけを拾い集め、それ以外に目と耳を塞がせる機能を果たしている。人には自ら求めて視野を狭めようとする傾向がある。自由はしんどいからな。
長編。なかなか面白かった。部隊は中東の架空の国〈シティ〉。現代の電子情報技術と、前近代的な社会整備の遅れが同居している、中東独特の状況。神秘的なファンタジーの世界とコンピュータネットワーク技術が重ね合わされる。世界を変え得る力を持つという賢者の石の如き書物をプログラムコードに変換するという着想が面白い。登場する魔物達は、何だかみんな人が良い。
愚かだった少年が力強い男性に成長していくという教養小説でもあるが、主人公の男の子の頼りなさに比べて、ヒロインの聡明さが際立つ。男はみんな自分を見失った馬鹿者に見えるんだろうなあ。
魔界にもインターネットが在るのかと主人公が驚く処が妙に印象に残る。「従兄弟よ、われらはワイファイを使っている」(p.303)。
信仰するとはどういう事かという問題が屡々話題に成る。作品の主要な主題ではなく、もしかしたら作者は主題として意識していないのかも知れないのだが、イスラム教への改宗者である彼女には自然と出て来てしまう問題なのかも知れない。
結末は「アラブの春」を連想させる。インターネットが普及し始めた頃、この技術に依って情報格差は軽減され、権力者やエリートに依る情報支配は弱まり、情報的民主制や公正性が広まるだろうと期待され、ネット市民、ネチズンといった言葉も生まれた。現実には、期待はある程度実現したが予想したほどではなく、寧ろ、悪意在る利用者を大量に生みだした。
注目されるのは、ナショナリズムなど偏狭な思想の流布に利用される点である。情報の叛乱は、公正性よりも、自分の気に入る情報だけを拾い集め、それ以外に目と耳を塞がせる機能を果たしている。人には自ら求めて視野を狭めようとする傾向がある。自由はしんどいからな。
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