スタニスワフ・レム著『捜査・浴槽で発見された手記』2025年08月18日 22:46

 長編二編収録。
 『捜査』は、始まりは推理小説の体裁。イギリスの死体安置所で死体が忽然と消えるという連続事件が発生。捜査を担当したスコットランド・ヤードのグレゴリー警部補だが、捜査は難航する。「死体が自力で動いた」と考えればつじつまが合いそうなのだが、グレゴリーはそんな考えは断固として受け入れない。やがて関係者との議論は奇妙に抽象的哲学的な「真実とは何か、真実は一つなのか」というような方向に進んでいき、物語は不条理文学的な様相を示し始める。
 シス博士という科学者の理論が面白い。捜査というか事件の真相を、統計学的に解明しようとして、事件の発生とその地域の癌の罹患率には、有意な相関関係がある、などと言い出す。
 『浴槽で発見された手記』には「はじめに」と題された序文が付いていて「人類文明がいったん滅んだ後、さらに三千年後の世界で、古代の人間の手記が発掘された」というSF的な設定が説明される。そして、その後の本文が、その手記の内容となっている。
 〈庁舎〉と称される巨大な政府機関であり、そのまま建物の名前でもある組織が舞台。主人公はどうやら〈庁舎〉の情報員で、司令官から〈特別任務〉を言い渡されるのだが、いつまでたってもその任務の内容が書かれているはずの指示書を読むことができない。指示書を求めて主人公は巨大な〈庁舎〉内をさ迷い歩く。出会う人々が言うことはみなのらりくらりとしていて要領を得ない。どうやら、〈庁舎〉で使用される言葉はみな暗号で、表面の意味の他に裏の意味があるらしい。探しても探しても自分の役割に近づくことはできない。迷宮的カフカ的閉塞感から最後まで抜け出すことはできない。
 『捜査』の語り口は重苦しく陰鬱だったが、『浴槽で発見された手記』の語り口は残酷でありながらも喜劇的でもある。特に、職種や階級、学問分野の奇妙な名称はグロテスクでありながら滑稽でもある。例えば職種では、秘密地獄官、第一級暴露官、粉砕官、糞便官、試験監督、濾過官、秘密痴呆官などがあり、学問分野では、奴隷根性学、週末観察、教皇および詐欺師学、応用死体学などがある。応用死体学ではいったい何を研究しているのであろうか。

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