ジーン・ポーター著『リンバロストの乙女』上下2022年08月05日 22:25

2021年10月17日読了。
 長編。梨木香歩のエッセイ集に収められていた解説があまりにも面白かったので読んだ。予想以上に面白かった。今世紀初頭に書かれたアメリカの家庭小説。翻訳は『赤毛のアン』の村岡花子。
 主人公は美しく賢く正しいこの時代の正統派主人公。つまり、人物としては類型的で面白くない。前半の敵役である母親のケートが圧倒的に面白い。自分にとって重要なことをはっきり見定めていて、そのためにはなりふり構わない。世間体とか、善悪とか、美醜とか、真偽とか、そういうことには頓着しない。愛する夫を奪ったのが娘だと思って恨み虐げている。ある意味では陰湿ないじめなのだが、その悪意が明快でいっそすがすがしい。その点では正直なのである。
 敬愛していた夫の裏切りを知り、自分が娘をいかに愛していたかに気づいた時の、娘への献身ぶりはすさまじいという以上の狂気を感じさせるものである。後半は娘との仲は改善するが、決して常識人になったわけではなく、目的のためなら手段を択ばぬような爆発力をひそませている。
 この母親に比べると後半の敵役である恋敵はやや小者というか、わかりやすい利己的性格なので、しりすぼみ感は否めない。それでも退屈することなく最後まで読める。
 主人公は蛾の標本を作って売ることで収入を得ているが、それに関連するナチュラリスト的な愛情のこもった自然描写も読みどころの一つ。

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