カート・ヴォネガット・ジュニア著『スローターハウス5』 ― 2025年11月15日 22:23
長編。1969年発表。「ビリーはけいれん的時間旅行者である。つぎの行き先をみずからコントロールする力はない。したがって旅は必ずしも楽しいものではない。人生のどの場面をつぎに演じることになるかわからないので、いつも場おくれ(ステージ・フライト)の状態におかれている、と彼はいう」(p.35)。
ビリー自身は取り立てて傑出した人物ではないが時代もあり偶然もあって、彼の人生はなかなかドラマチックである。とりわけ大きな事件は三つある。一つは、第二次世界大戦に徴兵されドイツで捕虜になって、連合軍によるドレスデン無差別爆撃をアメリカ兵でありながら被害者として経験する。もう一つは、飛行機の墜落事故に遭い、搭乗者の中でただ一人生き残ったこと。最後の一つは、トラルファマドール星人の円盤に誘拐されて、彼らの星の動物園に収容され、同じように拉致された若い女優と番わせられたことである。
トラルファマドール星人の時間感覚は独特で、彼らにとって時間は流れ去るものではなく過去も現在も未来も「そこに既にあるもの」である。ビリーの時間旅行能力はおそらくその影響であるが、因果関係は明示されていない。その能力のため、物語は時系列順には語られず、頻繁に前後に跳躍する。戦場でも異星人の動物園でもビリーは無力で、彼はただ翻弄されるばかりである。
戦後、彼は成功するが、それも彼の妻の一族の力によるもので、ビリー自身は成り行きの中で流されているようなものである。彼はそれを諦念にも似た気持ちで受け入れている。何しろすべての時間は「既にそこにある」のである。それを象徴するかのように、死の描写の後には必ず「そういうものだ」という言葉が付け加えられる。
「アメリカは地球上でもっとも豊かな国である。しかし国民の大半は貧しく、貧しいアメリ人たちは自分を卑下せざる負えない状況におかれている。アメリカのユーモア作家キン・ハバートの言葉にしたがえば、“貧乏だからってべつに恥じゃないんだが、やっぱり恥なんだな”。貧民の国でありながら、現実には貧乏することはアメリカ人にとって犯罪にも等しいのだ。賢く、徳が高く、したがって権力や富を持つもの以上に尊敬される貧民の物語は、世界各国の民間伝承に見うけられる。しかしアメリカの貧民のあいだに、そのような物語は存在しない。彼らはみずからを嘲り、成功者たちを称揚する」(p.155)。
ビリー自身は取り立てて傑出した人物ではないが時代もあり偶然もあって、彼の人生はなかなかドラマチックである。とりわけ大きな事件は三つある。一つは、第二次世界大戦に徴兵されドイツで捕虜になって、連合軍によるドレスデン無差別爆撃をアメリカ兵でありながら被害者として経験する。もう一つは、飛行機の墜落事故に遭い、搭乗者の中でただ一人生き残ったこと。最後の一つは、トラルファマドール星人の円盤に誘拐されて、彼らの星の動物園に収容され、同じように拉致された若い女優と番わせられたことである。
トラルファマドール星人の時間感覚は独特で、彼らにとって時間は流れ去るものではなく過去も現在も未来も「そこに既にあるもの」である。ビリーの時間旅行能力はおそらくその影響であるが、因果関係は明示されていない。その能力のため、物語は時系列順には語られず、頻繁に前後に跳躍する。戦場でも異星人の動物園でもビリーは無力で、彼はただ翻弄されるばかりである。
戦後、彼は成功するが、それも彼の妻の一族の力によるもので、ビリー自身は成り行きの中で流されているようなものである。彼はそれを諦念にも似た気持ちで受け入れている。何しろすべての時間は「既にそこにある」のである。それを象徴するかのように、死の描写の後には必ず「そういうものだ」という言葉が付け加えられる。
「アメリカは地球上でもっとも豊かな国である。しかし国民の大半は貧しく、貧しいアメリ人たちは自分を卑下せざる負えない状況におかれている。アメリカのユーモア作家キン・ハバートの言葉にしたがえば、“貧乏だからってべつに恥じゃないんだが、やっぱり恥なんだな”。貧民の国でありながら、現実には貧乏することはアメリカ人にとって犯罪にも等しいのだ。賢く、徳が高く、したがって権力や富を持つもの以上に尊敬される貧民の物語は、世界各国の民間伝承に見うけられる。しかしアメリカの貧民のあいだに、そのような物語は存在しない。彼らはみずからを嘲り、成功者たちを称揚する」(p.155)。
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