メアリー・ノートン著『床下の小人たち』2020年04月02日 20:48

16年 2月13日読了。
 ジブリのアニメにも成った英国のファンタジー。小人の家族の暮しの細部が面白い。人間の何を小人が何に転用して使っているかが事細かに書かれている。宝石箱の長椅子、マッチ箱の箪笥、壁に掛かっている肖像画は郵便切手である。
 小人達は「人間は自分たちに奉仕するための存在である」という、ある種傲慢な自分中心の世界観を持っているが、それは勿論、キリスト教的な人間中心主義の世界観を批判し、相対化する視点に読者を誘導する。一九五二年の発表だが、欧州の子供向けの本としてはかなり過激だったかも知れない。最後の一行が利いている。

ジュディ・バドニッツ著『イースターエッグに降る雪』2020年04月01日 18:35

16年 2月10日読了。
明示はされていないがおそらくは東欧と思われる深い森の中で生まれ、アメリカに渡ったイラーナの戦前戦中戦後に渡る生涯を描く。不思議な事が沢山起るのだが、幻想や不条理は強調されない。マジックリアリズム的手法。
 寧ろ酷く奇妙に感じるのは、イラーナと娘や孫達の心理である。酷く歪み不健全に感じるのに、何故か理解でき共感できる。それぞれに違った世界観を持ち、違う現実を見ている。ここまで来れば「確かな一つの真実てなもなねえんだ」という処まで後一歩なのだが、誰もが他者の現実を受け入れようとはしない。
 「それから、突き破って進むんだよ。だって結局紙に描いた背景なんだからね」(p.414)。

小川一水著『天冥の標9 ヒトであるヒトとないヒトと Part1』2020年03月31日 18:22

16年 2月 6日読了。
 何時もながら面白かった。登場人物が全部愛らしい。羊飼いの少年のけなげさも泣かせるが、異星人ミスン族が理想という概念を発見する処は感動的。

映画『赤ずきん』2020年03月30日 16:43

16年 2月 4日視聴。
 脚本的には退屈。人狼は誰かという謎で引っ張り、善悪が混乱し逆転する山場へと持ち込む思惑であったのだろうが、成功していない。人物にも取り立てて魅力は感じない。しかし、美術が良い。画面の緊張感で最後まで見る事ができた。特に、美しさと恐ろしさを同時に感じさせる森が良かった。結局、狼より人間が恐ろしいんだよ。

林道義著『ユング心理学と日本神話』2020年03月29日 22:46

16年 2月 4日読了。
 日本神話の英雄神、主にスサノヲ、オホクニヌシ、山幸彦を「男性性」という面から論じている。後半では神武とヤマトタケルにも少し触れている。
 西洋の英雄神が、太母的な者の影響を完全に脱した「自律的な男性性」を獲得しているのに対して、日本の英雄神は庇護的であれ対立的であれ、太母的な者の影響を脱しきっていない。それは記紀の成立時期が、母権的社会から父権的社会への移行期に在ったためである、というのが大まかな主旨。
 その事の当否は俺には判らないし、現代日本人の心性とどのような関係があるか、その精神史などもさっぱり判らないが、河合隼雄の中空構造論批判などもあり、話としては面白かった。
 俺が一番面白かったのは、英雄神話の発達論である。庇護される少年神から、破滅型英雄へ、さらに太母の影響を脱した自律的英雄へと発展していくというのである。或いは太母の庇護からの自律から、兄弟神との対決への展開。著者は西洋型英雄、例えばギリシア神話のペルセウスやヘラクレスが「自律したより完全な男性性」を備えているが、日本神話の英雄たちは移行的段階にある、と言う。
 西洋型の方が進んでいるようにも読めるが、著者は男性性を極端に押し進め、感情や直感、神秘性やエロスといった女性性を切り捨てる事の危険も説いている。たしかに、直感的にも両方ある方が成熟しているような感じはする。
 不安定さを呼び込み、破壊もするが創造もするトリックスターについても論じられている。トリックスターの幼児性が社会を活性化する上で必要な要素なら、それは実は「幼児性」という言葉から感じ取れる未熟さや愚かさを意味してはいないのではなかろうか。それが一種の「有効な機能」ならば、未熟でも愚かでもある筈がないからである。トリックスター本人がその機能に対して自覚的であるかどうかは判らないが。