養老孟司 茂木健一郎『スルメを見てイカがわかるか!』2020年08月01日 23:38

16年 8月14日読了。
 エッセイと対談。カバー裏に「本書のテーマ 普通の常識」とある。現代は普通も常識も良く判らなく成っている。笑いは常識を破壊する処に生まれるが、常識が頼りないので笑いにも力がない。本書では主に、意識の働き、都市と経済と原理主義、自然との関り方、などが語られる。
 「要するに同じだということは何を言っているのかというと、現在のところ、差異を発見する手段がないというだけなんですよ」(p.46)。
 「物理法則は、客観的な実在としてあるわけではなくて、あくまで人間の脳がつくりあげたものですからね」(p.47)。
 「その人間の脳も、また物理法則にしたがう物質である、というところに、話がぐるりと回るというか、とても面白い側面があって、そのあたりを私は一生懸命考えているのです」(p.47)。
 「茂木さんがおっしゃったように、『合理化とは何か』という問いはよく考えるんです。これは結局、自分の脳みそがラクになるということではないかと思うんです」(p.54)。

ロベルト・ボラーニョ著『アメリカ大陸のナチ文学』2020年08月02日 21:23

16年 8月15日読了。
 解説は何と円城塔。架空の右派作家人名辞典の形式。紹介されるのは三十人。いずれもエキセントリックな人物で、にやにやしながら読む。著者にはおそらく描かれた作家たちの愚かさへの共感があると思われるが、辞典という形式の中立性故に前面には出てこない。別に勉強のために読んだのではないが、二十世紀のアメリカ大陸、特に中南米の政治や社会の状況(と言うか混乱)、思想、世の中の雰囲気が判って得した気分。

モラヴィア著『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・諷刺短編集』2020年08月03日 21:51

16年 8月17日読了。
 実存主義の作家モラヴィアとしては珍しい、軽くユーモラスな不条理系の作品集。ファシスト政権下で書かれたという事もあり「自由に物が書けない状況で、隠喩を駆使した」というような評価もあるようだし、確かにはっきりとファシズムやナチを批判している作品もあるのだが、全体としてはシュール、奇妙な味、寓話のイメージを楽しめば良いと思った。
 「清麗閣」の由緒あるホテルで行われる結婚式の、グロテスクな内容など全くナンセンスである。ある日突然、患者が悪臭を発し始める奇病を描いた「疫病」では、患者の心理の変化の描写が秀逸である。奇妙な状況に陥った者の詳細な心理描写という点ではカフカ「変身」に通ずるかも知れぬ。釣り上げられた蛸が、自分たちの世界観の変遷を語る「蛸の言い分」も愉快。

若島正編『ベスト・ストーリーズ1 ぴょんぴょんウサギ球』2020年08月04日 22:47

16年 8月19日読了。
 一九二五年に創刊された、アメリカの歴史ある文芸誌《ニューヨーカー》。その掲載作品から、本邦初訳を中心に、名アンソロジストが選んだ傑作を収録(出版社ホームページ)。全三巻の一巻目。発表順に並べられている。一九二五年の創刊当初は「都会人による都会人のための雑誌」という方針だったらしいが、今読むとそれほど都会的とも思われない。質的にも面積的にも都市化が進んだためであろう。
 ドロシー・パーカー「深夜考」は、夜中に不眠に陥った作者が、脳内に居座ったラ・ロシュフコーを撃退するために四苦八苦するという、内面的独り相撲を描いた喜劇。岸本佐知子の訳の力も大きいが、現代でもこのまま通用する。
 ロバート・ベンチリー「人はなぜ笑うのか--そもそもほんとに笑うのか?」は、小論文のナンセンスパロディ。「笑いとはすべて、くしゃみの代用としての反射行動にすぎない」(p.49)。目茶苦茶である。
 ユーモラスな作品、洒落た掌編、心の擦れ違いを描いた物、ほろ苦い結末などであり、当時の都会的洗練の質が窺える。

若島正編『ベスト・ストーリーズ2』2020年08月05日 21:38

16年 8月21日読了。
 「ニューヨーカー」傑作選の二巻目。感覚的な作品が多く俺には合わなかった。アイディアやストーリーで読ませる作品なら多少感覚が合わなくても頭で判るが、感覚が主題と成っている作品はそうはいかない。都会的洗練は俺には似合わぬのであろう。
 その中では、アン・ビーティ「蛇の靴」の主人公の法螺話が俺には面白かった。「『蛇には足があるんだが、夏になると脱ぎ捨てるんだよ』サムはいった。『森の中にちっちゃな靴があったら、それは蛇の靴だ』」(p.184)。掌編だが、ジーン・ウルフ「列車に乗って」の不条理感も良かった。