トーン・テレヘン著『いちばんの願い』2024年03月11日 01:18

 著者の動物童話シリーズ。「63のどうぶつそれぞれに、まったくばらばらの、奇妙で切実な願いがある」(カバー袖)。
 「じつは、とクマは考えた。満腹で椅子の背にもたれ、口元についたケーキのくずを拭きながら、ぼくのいちばんの願いはもう二度とケーキを食べないことだ」(p.13)。
 「アブラムシはベッドの下に潜り込み、ほこりにむせ、じぶんのいちばんの願いはけっして、いかなることがあろうと実現しないにちがいない、と思った。願いの、ほんのひとかけらさえも」(p.19)。
 コガネムシ「もしいちばんの願いがあったとしたら、それはもう二度と失望しないことだっただろう----軽い失望も含めて」(p.58)。
 「だれもがいちばんの願いをもっている、と聞いたとき、ザリガニは思った。でもオレはもっていない。オレはいちばんの願いの反対のものをもっている。ザリガニはいちばんひどいことが自分に起こってほしかった」(p.65)。
 「いちばんの願いがなんであるか、ナマケモノに訊ねてみる必要はなかった。一目瞭然だったから」(p.73)。
 「マンモスは眠ってはいないが、起きてもいなかった。絶滅しているのはそのどちらともちがう、とマンモスは思った」(p.74)。
 「カバ」のエピソードは、意地っ張りなサイと卑屈なカバのちょっとしたいさかいの話だが、もう、身悶えするほど可愛らしい。
 「カブトムシのいちばんの願いは、自分だけでなく全員が陰気であることだった」(p.145)。
 著者の描く動物たちはいつも誰も妄想が暴走しがちである。愛らしく、滑稽で、少しシュールで、少し悲しい。おもろうてやがて悲しき、と言えば松竹新喜劇だが。

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