谷口裕貴著『アナベル・アノマリー』2024年04月05日 22:22

 連作形式の長編。人為的に超能力者を作り出す技術により生み出された少女アナベル。彼女が発動した、あらゆる物質を別のものに変える「変容」の力は、彼女自身にも制御不能で、放置すれば世界を滅ぼしかねなかった。
 アナベルの超能力はシュルレアリスティックである。「天井が黒く湧きたち、タールとなって滴り落ちた。壁はさまざまな蘭となって濃厚な匂いを漂わせた。モニターは糞便の塊となり、蛍光灯は虹色の泡を吐きだしはじめた」(p.10)。
 どんな武器も彼女には通用せず、終に彼女は研究者たちの手によって撲殺された。「いたいけな一二歳の少女アナベルは、三五人の大人の研究者に撲殺された」(p.11)。
 しかし、アナベルの肉体が死んでも彼女の力は消えることなく、世界中のあちこちに現れて大規模な死と破壊を撒き散らす超能力災害を起こした。世界は一二歳の少女に呪われたのである。
 多数の超能力者を配下に置く「対アナベル組織ジェイコブズ」とアナベルの戦いを中心に物語は展開する。シュールな超能力対決も読みどころの一つだが、主筋は超能力災害アナベル・アノマリーにかかわることになった人々の心情描写にある。
 アナベルが悪でジェイコブズが正義という図式になっていないところも面白い。発端からわかるとおり、アナベルは被害者なのである。そして、彼女を撲殺した研究者たちの生き残りを中心に発足したジェイコブズは傲慢で、実に嫌な組織である。その構図は超能力アクション以上に不条理で、凄味がある。

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