ウィーダ著『フランダースの犬』2022年12月01日 22:27

2022年11月13日読了。
 『フランダースの犬』読了。表題作と「ニュルンベルクのストーブ」の二編を収録。日本ではアニメで有名な表題作は、魅力的な登場人物もなく、面白いイメージもなく、筋立てはかわいそうな子どもが死ぬという感傷的なもの。世の中にはかわいそうな話が好きな人も多いということは知っているが、俺にはあまり魅力の感じられない話。少年と犬の友情がもっと豊かに描写されていれば、もっと良かったのにと思う。アニメがどうだったかは昔過ぎて思い出せない。「ニュルンベルクのストーブ」の方は、途中主人公の少年が見る夢の幻想性が、なかなか面白かった。

エレナー・エスティス著『元気なモファットきょうだい』2022年12月02日 23:10

2022年11月14日読了。
 まだ自動車が珍しかった時代のアメリカの田舎町、母子家庭の四人兄弟の物語。特別な人は出て来ない。善良だが、優秀な能力も持たず、立派でもない人たちのどうということのない日常が、子どもたちの視点で描かれる。大事件も神秘的な出来事も起こらない。そういう意味ではリアリズム。退屈といえば退屈だが、温かく微笑ましい感じもある。全体に人間に対する不信感が漂っていた『フランダースの犬』に比べると、性善説というか、楽観的な感じ。『ファミリータイズ』や『フルハウス』といったアメリカのホームドラマの原型がこういうところにあるのかなと思う。

納富信留他編『世界哲学史7----近代2自由と歴史的発展』2022年12月03日 21:50

2022年11月18日読了。
 一九世紀の欧米は、フランス革命後の大混乱、特にナポレオンが皇帝になり、たちまち没落して島流しになったこと、またアメリカでの南北戦争などが歴史的には大きな焦点となる。科学的には、ダーウィンの進化論や群論など数学の変革が哲学に大きな影響を与える。本書では特に自由という概念に注目して論じていく。
 神なき世界で人はどのように生きるか。言いかえるとカントとヘーゲルをどのように乗り越えていくかという問いに対し、ショーペンハウアーとニーチェが答え、功利主義とスピリチュアリスムがまた別の答えを用意する。さらに、アメリカではプラグマティズムが興る。
 イギリスの支配下にあったインドでは、西洋の受容と批判のために、スピリチュアリティ(精神性・霊性)とセキュラリズム(世俗主義)をもってインドのアイデンティティを確立しようと模索する。そして、日本では急激な西洋化「文明開化」による進展と歪みが同時に進む。
 おそらく、大航海時代を過ぎて、充実した交通と通信が世界を狭くしたことが刺激となって、世界に疾風怒濤の変化をもたらしている。停滞した行き詰まり間に満ちた現代とは対照的だなあと思う。

納富信留他編『世界哲学史8----現代 グローバル時代の知』2022年12月04日 22:08

2022年11月23日読了。
 全八巻完結。現代哲学をめぐる。当然のことながら、一九世紀以前のようにまとめられておらず混沌としている。まだ終わっていないからである。言いかえると、我々はまだその内部にいる。内部にあって全体をどう見渡すか、というのはなかなか難しい問題だが、キーワードを拾ってみよう。
 まず、分析哲学。ここでは、それを論理実証主義を出発点にした、事実(である)と価値(べき)を分離した二元論の問題として扱っている。そして、事実と価値を分離できないものとして再統合した新たな分析哲学を今後の課題としている。
 欧州の重要な主題として「大衆」を設定し、人物としてはオルテガとベンヤミンのメディア論を取り上げている。欧州哲学のもう一つの流れとして、フッサールからハイデガーの現象学を、実証主義や技術への批判として見ていく。
 ポストモダン、ポスト構造主義については「同一性と差異性の二元論の乗り越え」という視点で追う。人物としては、ドゥルーズ、デリダ、あるいはニーチェ、フロイト、マルクス、そしてフーコー。
 ジェンダーの問題にも一章が費やされている。俺にはまだよく消化できていないが「多様性を許容する寛容さという普遍性」というような、逆説的にも見えることをどう実現するか、みたいな話。
 イスラームや中国の現代哲学は、政治に振り回されながらも、興味が失われることはない。
 そして日本の「西周、井上哲次郎、西田幾多郎」という流れともう一つ、本居宣長に連なる「小林秀雄、柄谷行人、東浩紀」という批評系の流れ。最後にアフリカやラテン・アメリカの哲学について語る。

エレナー・エスティス著『ジェーンはまんなかさん』2022年12月05日 22:09

2022年11月24日読了。
 『元気なモファットきょうだい』の続編。この巻の、中心的視点人物は二女のジェーンである。ジェーンの心の動きが活き活きとリアリティを持って描かれているのが素晴らしい。ジェーンは元気で明るいだけでなく「子供にしては少し先回りして気を使いすぎる」ところがあるのも面白い。大人が思っているより内省的な子供は多いものだ。
 内省的な子供がしばしばそうであるように、ジェーンにも妄想癖がある(大人にもしばしばある、俺がそうだ)。オルガンの演奏で大成功を収めること、図書館の本を全部読むことなどなど。頭の中で考えているときは容易にできると思うのだが、当然、実現することはない。
 ところが、走るのは速いが球技は苦手なジェーンが、自分でも意外なことにバスケットボールの才能を発揮する。初めて試合に参加した結果は、キャプテンから「チームに入れ」と誘われるほどの大活躍だったのだが、現実の成功は妄想ほどにジェーンを興奮させず、ジェーン自身を困惑させる。
 こういったことは、子供には時折あることで、その意味ではジェーンは普通の子供であり、特別な魅力はないと言ってもいい。楽しいのは周囲の人との関係、特に町で一番のお年寄り、九十九歳のバックルさんとの交流が心に残る。バックルさんは中途半端な大人よりも子供の心がよくわかる。歳を取ると子供に戻ると言うが、バックルさんは子供の心と大人の知恵をもち合せているのである。
 それから、これは強調しておきたいが、この手の話にありがちな説教くささがないところも素晴らしい。