『赤塚不二夫生誕80年企画 バカ田大学講義録なのだ!』2021年06月06日 22:38

18年11月10日読了。
 二〇一五年十二月1日~翌年3月末まで、東京・本郷の東京大学(山上会館)で開講された「赤塚不二夫誕生80年記念企画『バカ田大学』」の講義録。手塚治虫と赤塚不二夫を対立的に捉えていて、手塚派・赤塚派みたいな事を言う人が何人か居たのが興味深い。
 みうらじゅん「小学校の頃は仏像が好きだったので、なりたい人は空海だったんです」(p.35)。
 「中三くらいのときに『仏像を熱く語ってもモテないんじゃないか?』ということに気がついて」(p.35)。
 駐車場の看板について「しかも『空あり』と書いてある。『“ない”ことが、ある』って書いてあるんです。投げかけてきているんですよね」(p.37)。
 「そういう繰り返しの言葉って『真言』なんですよね。『これでいいのだ』と繰り返していうことで、『これでいいのだ』という言葉が意味をなくしてしまう。繰り返すことで宇宙と交信するんです。世俗と離れて宇宙と一体化していくわけです」(p.37)。
 「死んだあと、当然僕のようなやつは地獄に落ちるので、もう地獄のマップを入手しています」(p.52)。
 養老孟司「人間って、そういう一番基本的なことを考えるのが嫌なんですよ。『私はなぜ生きているのか』とかね。ツレの顔を見て『なんでコイツと一緒にいなくちゃいけないんだよ』とかね。そういうことを考えていると、人生が暗くなってくるんですよ。ですから考えません。学者はとくに意識については考えたくない。だってみなさんがやっておられる『学問』は全部意識に依存しているんですから。そうすると、意識がどんな性質を持っているかについては、気になるとは思うんだけど、調べない」(p.216)。
 「感覚が何をしているかいうと、世界の“違い”がわかることです」(p.217)。
 「人の意識が何をしたか。その“違い”を“同じ”にするということを始めたんです。これは、動物はしないことです。たぶん動物は“同じ”にできないんです」(p.218)。
 「『等しい』も『交換』もないから、動物は絶対に『お金』を理解しません。みなさんがやっている『買い物』は、乱暴にも感覚を無視して“同じ、同じ、同じ”と言っているだけなんですよ」(p.224)。

養老孟司 藻谷浩介著『日本の大問題 現在をどう生きるか』2021年06月07日 22:09

18年11月12日読了。
 巻頭に養老孟司の教育論が付いた対談。
 「情報化社会とは、基本的に『先送りの社会』です。情報は基本的には過去のものです。情報とは、もう済んでしまったことのことです。過去のものに人々がこれほど囲まれている時代はありませんでした。済んでしまったことに取り巻かれていて、肝心のことを先送りにしているのが現代人です」(p.15)。
 「(日本の社会は)状況依存だから、状況が読めないと動けない。いきおい、義理や人情などの本質的ではない要素で物事が動き、二つの陣営に分かれてくる。それを長くやっていると、関係者がきれいに二つに分かれていって、中立の立場がなくなってくる。それでも中立でいようとすると両方からいびられる。人の世の中はそんなふうにできています」(p.27)。
 「日本はアメリカが古くなったような国だと思います」(p.171)。
 「教育と言うと、何か目的があったり、最低限ここだけは育てなければならないとか思っているようですが、僕はそうは思いません。結局『自分』の問題です。つまり、『学ぶ姿勢』がわかっていれば、それでもいいと思います」(p.191)。
 「学問はもともと非組織戦だったと思います。ところが、マルクスの頃から変わってきて、組織線になってきたところがあります。学問を実践しようという輩が出始めたからでしょう。学問は実践しないからこそ意味がある。それを学んでいる人の頭が変わることで、世界はひとりでに違ってくる」(p.214)。

養老孟司 南伸坊著『老人の壁』2021年06月08日 21:31

18年11月12日読了。
 半分以上読んだところで再読と気付く。面白いので最後まで読んだ。
 「でもマイナスを減らしていくと、プラスも減っていくんですよ」(p.65)。

円城塔 田辺青蛙著『読書で離婚を考えた。』2021年06月09日 21:54

18年11月13日読了。
 円城塔、田辺青蛙夫妻が「夫婦の相互理解のため」お互いに課題図書を出し合って交互に感想を書くという形式。理解以前の、前提とか基準とかそういう事を確認し合おうとするが巧くいかない、という感じ。円城塔の「今生では無理であろう」という台詞がおかしい。それぞれ自分の回の最後に相手に課題図書を指定するのだが、ここであれこれ迷う時に出て来る沢山の作品タイトルも興味深い。

大森望 日下三蔵編『年刊日本SF傑作選 プロジェクト:シャーロック』2021年06月10日 21:28

18年11月17日読了。
 我孫子岳丸「プロジェクト:シャーロック」は半ば素人が作ったプログラムが、ネット上で不特定の人々に依って改良が加えられ、優れた人工知能に成長していく話なので、普通に考えればカタルシスの在る結末に成りそうだが、そうは成らない。寧ろ閉塞的。作家というのは捻くれた生き物である。
 酉島伝法「彗星狩り」は、著者相変わらずのネーミングの面白さと、描写の巧みさ。ただ、もうあんまり驚かないんだよね。こののまでも面白いから、贅沢なんだけど。
 綾瀬まる「山の同窓会」も面白かった。この著者の作品を読むのは初めて。卵生人の奇怪な生理と、馴染みの在る日常感覚の同居する奇妙さ。
 山尾悠子の新作が読めたのも嬉しかった。
 今年の短編賞受賞作「天駆せよ法勝寺」は仏教を主題にしたスペースオペラだが、SF用語を仏教的な言葉に置き換えただけで、俺には余り面白くなかった。光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』や半村良の『妖星伝』のような、思想性がないのが物足りない。