映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』2021年02月01日 22:46

17年10月 5日読了。
 死者の世界の白い砂漠を帆船が走る映像は幻想的で良かった。石に変わる蟹のデザインも面白い。曲芸的なアクションデザインも面白かった。
 脚本は詰め込み過ぎで散漫な印象。主人公ジャックの「ジョーンズの心臓を突き刺し永遠の生命を手に入れる」という目的が、どうも思い付きのようで動機として強さを感じさせない事が、散漫な印象を強めているのかも知れない。
 最初の場面で処刑を待って並ぶ海賊と縁の人々が「海賊の唄」を歌いだす処は大変ロマンチックなので、このイメージを求心力にすれば面白かったのではないかと思う。中心がなく、玩具箱をひっくり返したような混乱がこのシリーズの楽しさなのかも知れぬが。
 女神カリプソの化身であるティア・ダルマは、ここまでのシリーズ中唯一といっても良い、主人公に匹敵する魅力的な人物だが、余り活躍しないまま姿を消すのが残念。

映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』2021年02月02日 21:44

17年10月 6日視聴。
 前三作と監督が変わったためか、これまでよりストーリーが纏まっている。その分、混乱した活力のような物が失われた感じ。クラーケンやカリプソのような強力な怪物も登場しない。怪物系で面白いのは人魚だけ。泉の場面に於ける重力(上下)の混乱などもっと活かせなかったかなあ。アンジェリカの動きなど、アクションデザインには面白い処も在った。

ドラマ『眩(くらら)~北斎の娘』2021年02月03日 21:02

17年10月 7日視聴。
 面白かった。画面に緊張感がある。演出のテンポも緩急が在って良かった。やればできるじゃん、という感じ。こんなのばかり百も二百も見たい。人物も皆活き活きとしていて良かったが、善次郎という人物のお栄にたいする思いが判りにくかった。松田龍平の演技のせいもあるが、脚本家や演出家も焦点が掴めていないのではないかと思った。俺の頭が悪いだけかも知れない。

アーシュラ・K・ル・グィン著『世界の誕生日』2021年02月04日 20:25

17年10月 8日読了。
 短編集。と言うか、中編くらいの長さの作品も多い。アンソロジーで既に読んでいた作品だが、「孤独」が一番好きかな。文化間の断絶を描き、安易な解決を付けていない処が良い。レヴィ・ストロース以降という感じがする。
 「愛がケメルを迎えしとき」は、一人の人間が男に成ったり女に成ったりする両性具有の種族の成長を描く。同性愛なども含むこういう性の変形は、俗に腐女子と呼ばれたりする、おたく系女子が好む。今に始まった事ではなく萩尾竹宮の昔からそうである。ジェンダーの問題もあり、女性の方が性に対して意識的であるという事かも知らぬ。見当違いの事を言っているのかも知らぬ。
 「セグリの事情」は、感染症か遺伝的な異常か、何らかの、おそらくは人為的な理由で男性の出生率が極端に少なく成った世界の話。当然男は大事にされるのだが、それが男に取って幸福な結末とは成らない。
 「求めぬ愛」と「山のしきたり」は惑星Oの物語。そこでは、セックスは人間と同じ二種類だが、ジェンダーは四種類在り、結婚は四人一組で行われる。そのために生じる様々な悲喜劇。半村良のショートショートでは、セックスが四種類在って、四人揃わないと交尾ができない、というのが在った。
 「古い音楽と女奴隷たち」は、奴隷制社会の崩壊過程にある惑星での挿話。支配者は「叛乱」と呼び、抵抗者は「解放」と呼ぶ戦乱の中で、翻弄される無力な人々を描く。
 「世界の誕生日」も古い社会が崩壊する話だが、その惑星の外から遣って来た異星人が直接的な役割を果たす処が「古い音楽と女奴隷」と異なる処。無力な神の物語。
 「失われた楽園」は、世代宇宙船の話。宇宙船の中で生まれ死んでいく中間世代の物語。

バリトン・J・ベイリー著『カエアンの聖衣(新訳版)』2021年02月05日 20:26

17年10月11日読了。
 服装が人格に影響を与えるのはよく在る事だが、カエアン人の作る衣服は極端に人の性格に影響与えるばかりでなく、その人の秘められた能力まで解放してしまう。それは、知性を持った植物繊維に依る人格の乗っ取りだった。
 奇妙な社会、装置、人物などが整理されない玩具箱のように詰め込まれた、典型的なワイドスクリーン・バロック。中心主題である衣服の他に、超低周波音で攻撃する怪獣だの、知性を持った鏡だのが意味ありげに出て来るが、さして重要な役割を果たさずに次の装置が登場する目粉しさ。狂騒的と言うか、お祭り騒ぎの楽しさがワイドスクリーン・バロックの醍醐味であろう。
 あっ、円城塔の『エピローグ』はワイドスクリーン・バロックではなかろうか。