上田早夕里著『薫香のカナピウム』2020年04月13日 21:21

16年 3月 2日読了。
 ノートンの小人たちシリーズの次にこれを読んだのはシンクロニシティであろうか。舞台は人類滅亡後の未来世界だが、安住の地を求めて彷徨う小人達という主題は似ている。一種の借り暮らしだし。『地球の長い午後』にも似てるか。読んだのが昔過ぎて良く覚えていない。
 俺の読み方が悪いのかも知らぬが、もっと熱帯の森の濃密さのごとき物が顕れていれば良かったと思う。湿度や、そこに籠る生物由来の様々な匂い。特に、嗅覚を発達させた主人公の種族には、我々の視覚に色や形が隙間なく詰め込まれているように、匂いが詰め込まれている筈で、それが強調されていれば、巨人たちの施設の嗅覚的空虚さの落差も出たであろう。
 森の生活や社会の全体像が充分焦点を結ばない内に巨人達との関りに話が移ってしまって説明不足な感じもする。寧ろ、北野勇作のように全体像を隠して読者に想像させた方が凄味が出たような気もする。
 何が正しいという結論はない模索的結末。カタルシスは弱く成るが誠実な感じがして気持ち良い。
 「融化子」というキメラ生物が出て来てなかなか魅力的なのだが余り活躍しない。

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