小川哲著『火星の女王』2026年06月15日 22:26

 長編。時は未来。レアメタルの採掘などを目指して移住開発が進められた火星は、今や経営に行き詰まり、地球の管理組織ISDAは火星からの撤退を計画していた。そんな時、「スペラミン」という物質の奇妙な性質が発見される。量子もつれにも似た、超空間的な同期変化を起こすのだ。この物質を使えば、超光速通信をはじめとしたさまざまな応用技術の可能性が開けた。その中にはもちろん軍事技術もある。この発見をてこに、火星の大企業「ホエール社」のCEOルーク・マディソンは火星の地球からの独立を企てる。ISDAはこれを阻止するべく圧力をかけてくる。
 火星独立をめぐるサスペンスである。地球火星間の通信は、距離が近い時でも五分はかかり、ロケットで移動しようとすれば数か月かかる。この距離が、物語の鍵を握る。
 個性豊かな登場人物たちの人生が交錯する人間ドラマが読みどころだが、特にマーク・ディクソンが謎めいていて面白い。悪人でも善人でもなく、独自の行動原理で行動しているらしいのだが、底が読めない。どうも「ただ面白がっている」らしいところもある。
 きっかけとなるスぺラミンは「生物と呼んでもよいのではないか」と示唆されたりするのだが、その性質が物語を左右したりすることはなく、ただ「その可能性の高さから両陣営が奪い合う」という役割に終始する。人間ドラマと並行して、「謎の物質の正体が明らかになる」物語が展開すると、もっと面白かったのではないか。と、口で言うのは簡単だが。

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