春暮康一著『一億年のテレスコープ』2025年03月26日 22:32

 長編。天文少年だった望は、やがて太陽系規模の電波望遠鏡を夢見、天文マニアの友人、新と縁と共に、この問題を検討するサークルを作る。時は過ぎ、生身の肉体の寿命を迎えた望は、意識を情報化して甦る。やはり情報体となった新や縁と再会した望は、実質的な不死という有り余る時間を活用して、巨大な電波望遠鏡を実現する計画を進めていく。その望遠鏡で探すものは「地球外文明」。望たちは増えていく賛同者たちとともに、発見した文明と出会うために旅立つ。
 物語はこうした主筋のほかに、「遠未来」「遠過去」と題される脇筋と並行して進められる。最終的には、遠過去から主人公たちにとっての現在を通って遠未来へとつながる、オラフ・ステープルドンか小松左京のような宇宙史的な壮大な物語が構成される。擦れたSFファンなら読み始めてすぐに「こうなるんだろうな」という予測がつく。そして、おおむねその通りに展開するのだが、それでも面白いのは、面白さが丁寧に構築された細部にあるからであろう。
 特に、主人公の「遠くを見たい」という欲求が、曖昧なようで実は切実なものである、という微妙な感じが良く描かれていて、「そうそれ。浪漫ってそういうこと」という共感を呼ぶ。
 最後にちょっと不満を言うと、登場する異性の知性体が、鳥のごときもの、昆虫のごときもの、狼のごときもの、蛸のごときものなど、基本的に地球の生物の変形でしかない。小松左京『虚無回廊』に登場するような、地球の生物には類縁が見られないような隔絶した知性が出てくるともっと良かった。
 それから、こういう「長命種族」が出てくる作品ではいつも思うことなのだが、何百年も生きているのに精神がほとんど変容しないのは無理があるのではないか。何らかの成熟か、あるいは歪みが現れてしかるべきではなかろうか。

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