石沢麻依『貝に続く場所にて』2022年10月20日 21:45

2022年 7月 5日読了。
 中編。九年前、東日本大震災を経験した主人公は、留学中のゲッティンゲンの町で、震災で死んだはずの知人、野宮に再会する。読み始めてしばらくは、野宮が本当に幽霊なのか、幽霊というのは比喩なのかがわからない。判らないことが面白い。そして、前半は野宮の存在以外は神秘的なことはほとんど起こらない。
 中盤を過ぎるとだんだん怪しさが増してくる。決定的なのは、主人公の背中に歯が生えてくることだ。最初は何かの比喩かと思ったが、実際に(いやもちろん小説だが作品内では実際に)背中に歯が生える。それをルームメイトに抜いてもらったりする。そのルームメイトが飼っている犬が、人々の過去を象徴するものを掘り出し始める。著者が意識しているかどうか知らぬがマジックリアリズムである。
 主人公は震災の記憶とどう向き合って良いのかわからずに困っている。どうやら主人公の周囲にいる人たちはみな過去との向き合い方(主人公は距離感や遠近感という言葉を使っている)に悩んでいる。それぞれが、たくさんの記憶の断片の「納まりの良い配置」を探る七並べのようなことをしている。
 しかし、どうも主人公は「納まってしまうこと」に抵抗を覚えて回避しようとしているのではないか、という感じもする。俺の読み違えかも知らぬが。

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