西崎憲他著『移動図書館の子供たち』2022年10月14日 21:53

2022年 6月18日読了。
 西崎憲プロデュースのアンソロジー「Kaze no tanbun」シリーズの一冊。幻想文学、奇妙な味、エッセイとも小説ともつかぬものなど。詩と思しきものも一編ある。エンターテイメント的なカタルシスはないが、心地よい酩酊感のような読後感が残る作品群である。
 宮内悠介「最後の役」は、意識していない時に「立直」「三暗刻」などと麻雀の役名をつぶやいてしまう男の話。主人公は「認知症になって人に知られたら恥ずかしい」などと思っている。似たような癖を持つ人は少なくないと思うが、たいしたことではなく、身につまされるというようなこともない。それなのに妙に深く共感する。
 伴名練「墓師たち」は、墓を作ることも語ることも禁じられた世界で、墓について言い伝える墓師たちの物語。墓師は様々な墓について語る。椅子を模して造られた墓、人に飼われる墓、目を塞いで手探りで作られる墓などなど。こんなこと言ったら著者は嫌がるかもしれぬが、伴名練のSF作品より面白かった。
 作品の間の白いページに、唐突な感じで収録作品の一文が引用されているのも面白い。
 「私は手のなかで開かれている本より、閉じられている本が気になるようになった」。

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