アマル・エル=モフタール&マックス・グランドストーン著『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』2022年10月08日 22:54

2022年 5月26日読了。
 中編。小説というより詩のようなところもある。引用が多く、本来は欧米の文学、映画や音楽、ポップカルチャーなどの知識がないと十分には楽しめないものらしく、翻訳者泣かせであることが訳者あとがきを読むとわかる。俺にはそういった欧米文化の知識はないが、ある程度楽しめた。
 超時空的な二つの組織≪エージェンシー≫と≪ガーデン≫の二つが覇権を争い、過去と未来、数多くの平衡宇宙を駆け巡って死闘を繰り広げていた。≪エージェンシー≫の工作員レッドは、敵の≪ガーデン≫の工作員ブルーと奇妙な「文通」を始める。最初はゲームのようなやり取りだったが、やがて二人は心を通わせ始める。
 文通の方法が面白い、さまざまな生き物の遺伝子や物質の分子や結晶(遺伝子だって分子だが)に細工をして、暗号が書き込まれているのである。それぞれが隠された「手紙」を発見し、解読していく過程が描かれる。
 それと並行して、時空を駆け巡り、並行世界を股にかけた死闘が展開されていく。敵に有利な未来を妨げ、自分に有利な未来へ誘導するために、過去を改変していく。いくつもの並行世界で、いろいろな形をしたアトランティスが、何度も海に沈む。カサエルの殺害場面に紛れ込む工作員たち。宇宙空間での艦隊戦。
 両陣営は平衡宇宙において、自分たちが支配する領域を広げようと争っているわけだが、細部においても全体像においても、あまりくっきりした焦点は結ばず、輪郭ははっきりしない。これははっきりしなくてよいのである。全部が見通せると安っぽくなるし、何よりも幻想性が損なわれる。

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