小川哲著『ユーロトニカのこちら側』2021年12月31日 16:15

20年 2月17日読了。
 第三回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。連作短編のような形式の長編。近未来のアメリカ、アガスティアリゾートという都市の住民は、個人情報、ライフログの全てを運営会社に売ることで、仕事をせずに安全で安心な高水準の生活が保証される。住民達はストレスがないために思考力を奪われてゆくが、それは自らが求めたものである。要するに自分で自分を家畜化している。単純なディストピアではなく、満足している人も大勢いるのだが、それを善しとしない人もまた多い。
 単純に善悪に分けない処が良いのだが、それ故にエンターテインメント的なカタルシスが弱い面もある。何だか最近、エンターテインメント的な作品に対しては「無理にエンターテインメントにする必要はない」といい、純文学的な作品には「エンターテインメントにすれば良かった」と、無理難題を言ってばかりいるような気がする。気難しい年寄りにありがちな。
 選評で東浩紀が「人物に魅力がない」と言っているが、俺はそうは思わない。主人公の一人である警官などなかなかいい奴である。東が言うのは「類型的で独特さがない」という意味であろうが。
 「読書メーター」に「読んでいない間も面白い本だった」という感想。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://castela.asablo.jp/blog/2021/12/31/9452277/tb