早瀬耕著『プラネタリウムの外側』2021年09月30日 23:21

19年 6月 9日読了。
 連作短編集。北海道大学が所有する「有機素子コンピュータ」の周辺で起こる奇妙な出来事を描く。フレーム内の仮想人格が、フレーム外の現実存在を操作するという逆転が起こる。フラクタルという言葉も使われており、内部と外部の曖昧性が一つの主題で、その点ではメタフィクション。
 「人々が過去について自分の記憶よりもデバイスの記録に頼るならば、デバイスを操作する事で過去は変えられる」という着想は秀逸だが、その主題が世界に関っていかずに、恋愛など個人の問題に収束していく。SFの読者は案外こういうのが好きである。センチメンタルと言うか。
 寝台列車、図書館、合わせ鏡、プラネタリウム、植物園といった浪漫的な道具立ても古典的である。
 設定された仮想人格が、死んでしまった実在の人物、ややこしい言い方に成るけど小説中の実在の人物をモデルにしている事もあり、登場人物達は仮想人格にある種の愛情や共感を感じているが、さて彼の方はどう思っているかというイライザ問題もさらりと描かれる。
 宮内悠介ならどう書くかなと思ったり。
 この作品に関し、記憶の喪失について牧眞司はこう書いている。「物理的に失うだけではなく、その存在についての記憶すら失ってしまい、「失われた手ざわり」だけかすかに残る」(『WEB本の雑誌』「今週はこれを読め! SF編」)。

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