エリザベス・グージ著『まぼろしの白馬』2020年06月01日 21:50

16年 5月24日読了。
 無理に分類すればファンタジーだが、動物達が奇妙に賢い事を除けば、魔法に類する神秘的な事はちょっとしか起らない。寧ろ、歌舞伎的な因縁話が面白さの中心である。祖先の罪を末裔が償う。こういうのが原初的な物語構成の元型の一つなのであろう。プライドが高く直情的な血筋という設定が面白い。

バーバラ・スレイ著『黒猫の王子カーボネル』2020年06月02日 16:55

16年 5月25日読了。
 ある時突然平凡な少女が魔法を手に入れるというよくある形式。主人公の少年と少女の目的が、自分のためではなく知り合った黒猫を救う事にあるのだが、単純な友情だけではなく好奇心や冒険心を満足させたい気持ちもあって、子供らしい。少女が、出会った人たちと次々に心を通わせていくのが読み処の一つ。

ジャンニ・ロダーリ著『青矢号 おもちゃの夜行列車』2020年06月03日 21:02

16年 5月26日読了。
 プレゼントを買ってもらえない貧しい少年の許へ、ショーウィンドウを抜け出した玩具たちが旅をする物語。魔女とその使用人の善良ではないが憎めない性格設定が面白い。死を理解できない桃色人形が切ない。「なぜおばあさんが目をさまさないのか、桃色人形はふしぎでたまりませんでした」(p.93)。

アンドリュー・ラング著『りこうすぎた王子』2020年06月04日 16:18

16年 5月26日読了。
 御伽話のパロディー。かしこすぎて傲慢な嫌われ者の王子が主人公。最も嫌っているのが実の父親である王。王子は竜を倒して姫を手に入れるが、王子を嫌う人々は釈然としない。妖精や魔法の存在を絶対に認めようとしない王妃が面白い。捻りが効き洒落ているが、19世紀末の出版と知って驚く。

養老孟司 河野和生著『虫のフリ見て我がフリ直せ』2020年06月05日 21:10

16年 5月27日読了。
 対談。書名の軽さに比して、重い内容。ネオダーウィニズムへの批判が目立つ。小さな進化が積み重なって大きな変化に成るというのがダーウィニズムの骨子だが、現実の進化は目とか門とかいった大きな枠が先にできてその中を細かく割っていくように進んできた。
 「学説とは、まず『そんなことはありえない』といわれ、つぎは『私もそう考えていた』となり、最後に『それは当然だ』となるものだという」(p.61)。
 「とくに発生過程は、多くの遺伝子の『協調の』産物である。これは俗にいわれる『生存競争』と、ある意味では、まったく逆の観点であることに、ご留意いただきたい」(p.63)。
 「ヘッケルの言った『個体発生は系統発生を繰り返す』というのは無理があってダメだけれど、それを逆にして『系統発生は個体発生の延長でしか起りえない』と順序を入れ替えると、いろんなことが説明できるのではないかと思います」(p.208)。
 「西洋人はある法則を神に与えられたと思っているから、客観的な科学世界の中にある法則を自分が取り出したと考えますが、僕は東洋人なので、自分の脳で見るんだから、こちらにないものは見つからないだろうと考える」(p.211)。
 「確かに真理は単純なんですよ、きれいな形で描けなければいけないから。でも同時に、事実は複雑なんですよね」(p.215)。