筒井康隆著『モナドの領域』2020年02月26日 22:49

15年12月18日読了。
 はっきりと地名は書かれないが、どうやら東京郊外か地方都市らしい街に神が現れる。いとも容易く、ふらりと現れる。雷も鳴らないし嵐も起こらないし神を称える歌声も響かない。降臨の前にバラバラ事件が起こっているのだが、これが神の出現とはっきり結び付けられるのは終盤に成ってからである。
 神は普通の人間に憑依している。千里眼や予知のような事は行って見せるが、はっきりとした奇跡は起こさない。にも拘らず神と関った者は皆彼が神だと確信してゆく。その言葉のみに依ってである。
 人間が想像力で生みだした宗教上の神ではなく独自の存在である事を強調するため、彼はGODと名乗る。彼は空間的にも時間的にも遍在し、それどころか全ての可能世界にも普く存在しているらしい。
 殆どの場面は人間とGODとの対話に費やされる。作品の面白さは、GODの語る世界観、人間観に集中している。GODは真善美といった言葉を使うが、それはどうやら人間の価値を遥かに超越した物らしく、「悪は真」と言ったり、災害や戦争を「美」と評価したりする。それどころか、人類は必ず滅亡しその後も宇宙は続くと何でもない事のように言う。
 GODには人間を導く積もりも救う積もりもなく、言うなれば、自ら作った或いは作りつつある、まあGODは時間的にも遍在者なので時制は確定できないが、作品を鑑賞するような態度で居る。
 GODは世界や人間について、様々な事を説明したり示唆したりするが、究極的には不可知論的な処に行き付く。これは当然で、無限の遍在者の事が人間の言葉で説明でき理解できたらそっちの方がおかしい。この世界を小説に喩えたり(我々読者から見れば実際に小説なのだが)するので、世界は実在的にも情報的にも解釈できると考えていると言うか知っているらしい。
 俺に面白かったのは、多元宇宙的な全ての可能世界は、独立した時間の流れを持つ世界が並列的に存在するのではなく、相互に関連して、もしかしたら第五次元的に連続して広がっている事を示唆している点である。
 もっと語って欲しかった点としては、生命とはどのような物か。星は、宇宙は生きているのか。また、物質は粒子モデルで語られる事が多いが、時空間やエネルギーは粒子モデル的か連続モデル的か。その時、プランク定数とはどう解釈すべきか。というような事をGODにお聞きしたかった物である。まあ、自分で考えろという事であろうが。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://castela.asablo.jp/blog/2020/02/26/9218238/tb